村上隆のDOB君、奈良美智のつり目少女、会田誠のマンハッタンを空爆するゼロ戦……多くの人がこれまでも一度は目にしてきたであろう、日本の現代アートを代表する名作たちが一堂に会している。東京・上野の森美術館で開催中の展覧会「ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション」での光景だ。驚くべきは、作品のクオリティはもちろんだが、これらがすべて精神科医・高橋龍太郎氏のコレクションであること。

(上写真)立体、映像、インスタレーションも多彩。(写真)高嶺格「MUTED SPACE」2000 Courtesy of the Artist
日本屈指の現代アートコレクターである高橋氏は、若手作家の作品を積極的に収集、国内外で活躍する多くのアーティストたちのデビュー当時の作品や代表作を数多く所有する。1,000点以上におよぶ豊富なコレクションは、世界から注目を集めるこの10年の日本アートシーンを語るうえで欠かせないものであり、2000年ごろから財政難により新作の購入がしづらい状況が続いている日本の美術館に量質ともに迫る勢いだ。
1990年代以降の日本の現代美術を牽引してきた2人、奈良美智と村上隆の初期作品は貴重。(右写真)奈良美智「Candy Blue Night」2001 Courtesy TOMIO KOYAMA GALLERY
この展覧会では、奈良美智、村上隆など国際的に活躍するアーティストから若手まで多彩な33作家による絵画、立体、映像、インスタレーションなど約80点の作品を一挙公開。1990年代以降の日本の現代美術にみられる特徴――幼さ、純粋さ、カワイイ、マンガ、アニメ、オタク、サブカルチャー、内向性、ファンタジー、過剰さ、日常への視線、巧みなビジュアル表現など、日本の現実や若者の心象風景とリンクした世代のアーティストたちが生み出してきた新たな世界を、「neoteny(ネオテニー)」をキーワードに、多角的に読み解く。
会田誠、山口晃、天明屋尚、町田久美といったネオ・ジャポニスム的作家たちの作品も多い。(写真)2001年9.11テロの状況を予兆したものと後に人々を震撼させた、会田誠「紐育空爆之図[にゅうようくくうばくのず](戦争画RETURNS)」1996 Courtesy the artist and Mizuma Art Gallery
ネオテニーとは、動物学や発生学で幼形成熟を意味し、幼形を保ったまま性的に成熟する過程のこと。高橋氏は、成熟しきった欧米美術とは異なる、明治期から現代に至る日本美術の状況をネオテニーになぞらえてこう語る。「たぶん日本の美術界は、泰平の夢を貪りながら漂っていた江戸期から、西欧文明によって人工早産させられた胎児のショック状態にあったのだ。この幼形の胎児が眠りから覚めるのに100年を要したと考えるのが自然だろう。幼形はゆっくりと成熟する、これはネオテニーの基本である。日本の美術界は、ネオテニーとして、今初めて語り始めた」。(本展カタログより)
先駆けて行われた札幌展、霧島展に続いて全国巡回中の作品たち。東京展では、新たに登場するものも多い。それらを目の当たりにすることで、日本の現代アートの軌跡と、それを支え続け、トップクラスの作家を育ててきたと言っても過言ではないひとりの精神科医の大らかながら鋭い眼差しを感じることが出来る。この機会に現代美術を観る楽しさ、作品について考える愉しみを再発見したい。
1970年代後半生まれの作家たちのフレッシュな作品も、高橋コレクションの見どころ。(左写真)写真と見紛う、加藤美佳「パンジーズ」2001 Courtesy TOMIO KOYAMA GALLERY
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ネオテニー・ジャパン―高橋コレクション
会場:上野の森美術館 東京都台東区上野公園1-2 Tel 03-3833-4191
会期:2009年5月20日(水)〜 7月15日(水)会期中無休
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般¥1,200(¥1,000)、大高生¥1,000(¥800)、中学生以下無料( )内は前売券及び20名以上の団体料金
※アーティストやスペシャルゲスト(verita特集で日本の現代アートを紹介、本展カタログも手がけた宮村周子さんも登壇)によるトークなど展覧会詳細はこちらから
※ネオテニー・ジャパンは東京展のあとも日本各地を巡回予定。2009年7月21日〜9月10日 新潟県立近代美術館、9月19日〜11月29日 秋田県立近代美術館、12月13日〜2010年2月11日 米子市美術館
※高橋コレクション日比谷では、高橋氏の大蒐集のきっかけとなった草間彌生作品の展覧会を2009年7月26日(日)まで開催中。
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