ダイナミックな作風を武器に、個性的で鮮烈なポートレートを発表し続けているロンドン在住のアーティスト、コンラッド・リーチ。彼がveritaに初登場してくれたのは2006年5月のこと。マリリン・モンローやマレーネ・ディートリッヒ、シド・ヴィシャスやエルヴィス・プレスリーら、時代を超える伝説的なアイコンたちを描いた作品群を背に、創作への熱い想いを語ってくれたのも記憶に新しい。

そんな彼が、2009年7月30日~8月1日まで、「3DAYS SPEED SHOW」と題された展示会を、世界に先駆けて表参道の会員制ダイニング「copn norp」で開催した。前回のインタビューの際、次回作は大好きなモーターサイクルをモチーフにした作品を描きたいと意欲を見せ、「まだアイディア止まりだけど…」と下描きまで見せてくれていたコンラッド。約束どおりシリーズを完成させ、これまでとは違ったコンラッド・リーチの世界を披露してくれた。
今回のプリント・シリーズの土台となっているのは、モーターサイクルとスピードカーへの愛情。熱心なバイク・デザイナーであり、ライダーでもあるコンラッドは、一点一点に強いコンセプトとストーリー、個人的な想いをたっぷりと沁み込ませている。
「数年前からモーターサイクルやスピードカーに関するプライベートワークに取り組んでいたんだ。当時はコミッションワークを多く手掛けていたから、プライベートな作品をやりたいという気持ちが膨らんでいてね。そうしたら、モーターサイクルのイメージが浮かんだんだ」
自らが大きく成長する際の節目には、いつも車やバイクがあったと話す。「車やバイクでの旅はさまざまな経験と知識を与えてくれるんだ。かつて65マスタングを所有していたけど、今はハーレー・ダヴィッドソンのカスタムが愛車。バイクに乗るという経験を楽しんでいるよ。風を感じ、自由を感じる。これが最もモーターサイクルをエキサイティングにしている理由だと思う」
今回のシリーズには、そんなモータースポーツにまつわる自由な精神を反映させた作品が並ぶ。シリーズの中の1作、ピーター・フォンダのポートレートについてはこう話す。
「映画『イージー・ライダー』にはとても強い影響を受けた。バイク好きなら影響を受けない者はいないバイブルだよね。ピーター・フォンダは、初期に手掛けたポートレートのひとつ。実は、数週間前にロンドンのモーターショーで彼に偶然出会ったんだ。僕が彼の画を描いていると知っていたかどうかは分からないけれど。それに、長年彼に憧れてきた僕は、彼の前に立ったらアーティストというより、ひとりのファンとして熱狂してしまったんだ。だから、作品についてなんて語れなかった(笑)。彼が演じたワイアットという役は想像上の人物ではあっても、多くの人にとって自由な精神の象徴となった。ワイアットとピーターの存在は常にさまざまなレベルで僕のインスパイア源となっている。今回もピーターが描かれたポートレートが展示されているけれど、これは『イージー・ライダー』を観ていて、あるシーンが静止したように見えたことが創作のきっかけになったんだ。だから実はピーター自身ではなく、ピーターが演じたワイアットを描いたというほうが正確だね。バイクは描かれていないけれど、彼はバイクそのもの。だから、バイクを暗示する存在として描いているんだ」
不吉な数字とされている13というナンバープレートをつけたバイクに、ドクロがまたがる“ラッキー13”については、こう説明する。
「これはアメリカのスピードレース草創期に敬意を表した作品。当時のレース用広告ポスターによく使われていたデザインで、その頃のワイルドでクレイジーなモーターサイクル文化の精神を示しているんだ。世界的に不幸の象徴である13という数字は、レーサーたちは好んで使うんだよ。反骨精神の表れとでも言おうか。危険も気にしないし、ゲンもかつがない、危険を恐れない男たちのメンタリティーをよく示してしている。不吉な骸骨も同じだね。今では、かっこいいモチーフの代表となったけれど。キュートなアメリカのキャラクターたちとの対極をなしている文化として描いた。これは、アメリカのレースカルチャーの始まりを象徴するデザインと言えるね」
このほか、ユニオンフラッグを英国の伝統的な紳士の色であるピンクに染め、祖国イギリスのレースカルチャー創世記を表現した作品や、セクシャルでグラマラスな女性とバイクという古典的な組み合わせに反旗を翻し、女性とバイクの対等な関係を表現した“モーターガール”、フェラーリに乗りカーブを曲がらんとする英国の名ドライバー、ジョン・サーティズの後ろ姿によって、男のコミットメント精神やエレガンスを描いた作品なども並ぶ。
「自分が本当に興味を持っていることをやっているだけ。自分がやることに、とてもコミットしていると言えるだろうね。それが作品に深みを与えてくれていればいいと思う。僕はいつも作品にバックストーリーを持つ傾向があるけれど、依頼された作品を描くときでも、リサーチを徹底的に行い、自分が面白いと思えるアスペクト、自分にアピールしてくる要素を見つけて、そこに焦点を当てて描く。いろいろなことに興味を持つことは大事。どんなことから、インスピレーションを得られるか分からないからね」
今後取り組んでいきたいテーマについて訊ねると「浮世絵」と意外な答えが。
「今、浮世絵に興味があって、いつも頭にあるんだ。日本との関わりが深くなっているから年々、想いが強くなってね。英国でとある人物から、浮世絵についてのコメントを求められ、別々の絵師の作品から意外な共通点を見つけ出したりもした。深く浮世絵や日本文化に通じている人ではなかなか気づかないことも多いかもしれない。だから、新しい視点で浮世絵を見つめ、コンセプトを少しずらしたり、色を変えたり、サイズを変えたりと新しい僕らしい解釈を行ってみたい。英国では、ヴィクトリア&アルバート博物館には日本作品が多くコレクションされているなど、アクセスは豊富。浮世絵にはポップな要素も多い。興味深いね。モダンな解釈で浮世絵を現代のリビングルームに復帰させたいんだ」
今回の来日では、浮世絵の本を探しに神田にもでかけたという。だが、浮世絵の専門家にはなりたくはないと話す。
「浮世絵を深く理解し過ぎたくはないんだ。あくまでも、アウトサイダーでいたい。浮世絵を直感的に見て、肉体的に反応することにこだわりたい。この絵師があの絵師より素晴らしくて、どの絵が重要かという判断を下したりすることで、フレッシュな感覚を失いたくないんだ。あくまでも“ガイジン的経験”を重視したい。たぶん、浮世絵にインスパイアされた新作は、今年の末には披露できると思うよ」
さらに世界観を展開させ、新境地を開きつつあるコンラッド・リーチ。次はどんな驚きを提供してくれるのか、ますます楽しみだ。
(interview photo / shiori kawamoto, text / june makiguchi)
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