西洋美術から最も離れた人々が描く現代アート。それは、西欧文化・文明社会に浸りきった我々に、何を訴えかけているのだろう。シンプルに自然と調和して生きてきた彼らの描くものが、テクノロジーに依存しながら生きる我々の中にかすかに残る本能を、どこかでくすぐっているのだろうか。
(main photo / toru hiraiwa)

「絵の前で泣いている人を観たこともあります。観る人が頭で考えず、直感的に何かを感じられるのが魅力なのでしょう。アボリジニアートはあくまでも、読んだり書いたりする手段を持たないアボリジニにとっての、唯一の情報伝達手段。展覧会では、絵として表現された“ドリーミング”について解説しています。良い作品を自分のために選んでくれとおっしゃるお客様もいますが、自分の感覚にもっと素直になっていいのがアボリジニアート。私たちは学習に慣れてしまって、芸術や美術については、こう解釈すべきとか、こう理解すべきと誘導されているようなところがあります。でも、描いている彼ら自身は構図、評価を考えていません。ですから、あなたも直感的に好きかどうかで判断してみてください」
今でこそ、現代アートという位置づけで、その素晴らしさに触れる機会が多くなったが、もともとは、砂や岩、そして身体に描かれていたものであり、アボリジニの世界では芸術という位置づけのものではなかったと内田さん。
「実は、アボリジニアートは多くの人に見てもらうためのもの、いわゆるアートではないんです。人に見せてはいけないものもあるくらいですから。彼らは、人に評価されるために描く、つまり美術という意識を持っていませんでした。もちろん、アーティストとなった以上、人気の画家、高い評価を得ている画家なども続々と登場しています。でも、アボリジニにとってはそもそもこれらはアートではないからこそ、技術や色づかいなどの巧みさは、彼らの世界ではあまり重要ではないんです。彼らにとって最も大切なのは、何を伝えているかということ。大地とのかかわり、自然とのかかわりと描いた神話を描いているということが重要なんです」
注目を集める人気ジャンルとして確立された今、アーティストの中には、西洋的なテクニックを学び、作品が洗練されすぎてしまったアボリジニアートも多いという。そんな中から、内田さんは自らの審美眼で、これぞという絵を入手し、日本に紹介している。
「いくら綺麗でも、洗練されていても、観ていてわくわくする絵じゃないとだめなんです。エネルギー性の高いものでないと。そんな作品を探すため、砂漠で何千点という作品を観てきました。ときには、手ぶらで帰ってくることもあります。そこまでこだわるのも、素晴らしいものを日本の皆さんと共有したいからなんです」
ギャラリー上原でのアボリジニアート展は、そんな内田さんの想いが実現した展覧会のひとつ。5年目を迎える今回展示されるのは、この1年間に出会った30点。典型的なアボリジニの表現手法である点描画“ドットペインティング”の作品も含まれる。
もし、この展覧会であの時の内田さんのように、アボリジニアートと運命的な出会いを経験したなら、ぜひオーストラリアのノーザンテリトリー州にも足を運んでみて欲しい。アボリジニから、家族として受け入れられている内田さんのように、彼らの居住区へ行くことは無理でも、アリススプリングスへ行くだけで、アボリジニの文化、歴史に触れることができる。多くのギャラリーも点在しているので、もちろん彼らのアートも満喫できる。 (右写真)ジョージ・ワード・チュンガライ「ティンガリ」(120cm×50cm)
また、アボリジニ文化に触れたいならば、“地球のへそ”とも呼ばれるエアーズロック=ウルルにぜひ訪れたい。ウルルは、ご存知のようにアボリジニの聖地。
「砂漠のアボリジニが暮らすウルルに行くと、元気になります。自分を繕ったりする必要がなく、仮面をつける必要がないですからね。そして、この赤い大地からこのアートが生まれたんだと納得できる。えも言われぬウルルの色は、アボリジニアートでも楽しめます。でも、ウルルの色、匂い、空気は、やはりあの地で体感してこそ。木が語りかけてくる、精霊が山に宿っているという感覚にも納得がいきます。すべての感覚が研ぎ澄まされる感じもありますね。ビルに囲まれ、コンクリートジャングルの中で生活していると、なかなかその感覚を理解できないかもしれません。ですから、アボリジニアートに魅了されたら、ぜひウルルに足を運んでみてください。写真で観ても素敵ですが、とても写真に収まりきるものではないですからね。あの素晴らしい朝日や夕日、刻々と変わる風景、変化していく表情をアボリジニたちは伝達しているのでしょう。あの地に行くと、自分が何を求めているか自分の心と向かい合うことができると思いますよ」
関連キーワード
ABORIGINAL ART EXHIBITION 2010
アボリジニアート展
2010年6月19日(土)〜27日(日)
11:00〜19:00 最終日は17:00まで 会期中無休
ギャラリー上原
東京都渋谷区上原1-21-11 BIT代々木上原II 1階
Tel:03-3467-3932
主催 Art Space Land of Dreams 代表 内田真弓
後援 オーストラリア大使館
オーストラリア政府観光局
ノーザン・テリトリー政府観光局
>ノーザンテリトリーの情報はカンタス航空「旅のスタイルガイド」で
-
- 青参道アートフェア
- 意識するだけで変わる、より楽しめるアートのみかた
-
- 瀬戸内国際芸術祭2010
- 個性豊かな7つの島々を舞台とした芸術祭。見どころ&おすすめスポット
-
- 大地から生まれたアート Vol.1
- アボリジニアートプロデューサー 内田真弓さん インタビュー
-
- 大地から生まれたアート Vol.2
- アボリジニアートプロデューサー 内田真弓さん インタビュー
-
- 奈良美智個展「セラミック・ワークス」
- 奈良美智が滋賀県・信楽にこもって制作したやきものの少女たち
-
- フセイン・チャラヤンの日本初個展 vol.1
- ファッションとアートのボーダー上を歩くには? 林央子さんがインタビュー
-
- フセイン・チャラヤンの日本初個展 vol.2
- ファッションとアートのボーダー上を歩くには? 林央子さんがインタビュー
-
- お化け屋敷で科学する!2 〜恐怖の実験〜
- ポルターガイスト現象やラップ音、人魂、幽体離脱etc.怪奇現象を体感して解明
-
- ヤンミー・キョン個展 in 葉山 habitable
- 葉山在住一家の居間からみる住むに適したアート
-
- 市川孝典 作品展「murmur」
- 記憶を線香で官能的に描き出す 市川孝典にインタビュー!
雲海テラスで今だけの奇跡の絶景! 季節によって多彩に楽しめる多目的リゾート 2010.07.28
八ヶ岳リゾナーレでの野菜を巡る読者ツアーをレポート 2010.07.28
満月に乾杯! タイ生まれのプレミアムビールでエキゾチックな真夏の夜 2010.07.28
栄養療法が軽んじられてきたのは、商売にならなかったから!? 2010.07.14
カナダ最大の都市、トロント。注目エリアからデザインホテルまで、verita流の楽しみ方 2010.07.07
おすすめ記事
-

人を幸せにする時代小説
2010.06.02
2010年本屋大賞を受賞した「天地明察」。読む人を幸せにするという本書に癒されて
-

『ぼくのエリ 200歳の少女』
2010.06.30
“その気”が先か、“その気になれる男”が先か















