パリの国立図書館の薄暗い部屋で、来る日も来る日も中国の古い文献と格闘していた著者は、ある日個展を開いていた(著者は絵画や彫刻も手がける)画廊で、自分の絵を買いたいという女性と出会った。
その女性、ラファエルさんは弁護士。二人は恋に落ち、結婚し、日本で一緒に暮らし、かわいい男の子を授かった……
と、こう書くといかにも平凡で、「……また海外デハノウミエッセイ?」と言われるかもしれない。(筆者注:海外デハノウミエッセイとは、『おフランスではこうざます』『アメリカではああざます』と、海外に滞在/旅行した人たちが寄せては返す波のごとく「では」を繰り返しながらウンチクを傾けるエッセイのこと。言うまでもなく筆者造語)
本著が海外デハノウミエッセイとちょっとちがうのは、どっしり生活に腰をすえた視点から書かれていることだ。
ルーブル美術館で学芸員が子どもに絵をどう説明するか、という話から、わが子と一緒に魚を買いにいって、内臓を取り出し料理するホンモノのほうが、葉っぱを刻むおままごとよりもずっと楽しいという話が引き出される。夫のメールにあった「ミジンコ」という言葉を、浮気相手の女の子の名前だと勘違いした妻が怒り狂うから、「ミルフィーユ」(「千人の女の子」という意味。正しくは「ミル・フォイユ」)など和製フランス語のおかしさが語られる。
なんでもおもしろがっちゃうぞという著者のキャラクターなのか、それとものんびりしているようでツッコミが鋭いフランス人の妻のキャラクターなのか、とにかく二人の生活は毎日わくわくして楽しそうである。たぶん悪戦苦闘する場面だっていっぱいあるし、落ち込むことも多いはずだし、実際にそういう話も出てくるのだが、読んでいるかぎりは日々是発見・日々是興奮。国際結婚ならではのエピソードもあるが、たまたま育ってきた環境がちがった二人が、「そのちがいっていうのが、ほらこんなにおもしろいんですよ!」とにこにこ笑って話してくれている感じだ。

このごろなんだか同じことの繰り返しばかりでツマンナイナーとため息をついているあなた、この本を読めば日常生活の中でも、ちょっと視点を変えるとおもしろい発見がいっぱいあるよと気づけるかもしれない。
(text / motoko jitukawa)
『妻はパリジェンヌ』
やまぐちヨウジ著 文藝春秋、¥1,680(税込)
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