「食卓に主義を持ち込まない」と豪語していたことがある。
子どもが幼かったころ、当然ながら食卓に並べる食品の質が気になった。添加物がコワイ! 無農薬で育った野菜中心の献立でなくて! そう思うと止まらなくなった。家計を圧迫するのも省みず、遠くまで高額な野菜や米を買いに出かけた。もちろんファーストフードなんてまちがっても食べさせなかったし、お菓子でさえ手作りのもの以外は禁止した。
ところが、ある日そんな私の主義をくじけさせる出来事が起こったのだ。 テレビでチョコレートのCMが流れたとき、2歳だった次女がまわらぬ舌で9歳の長女に聞いた。
「おねーたん、あれ、なに? あの茶色いの、なに?」
長女は吐き捨てるように、自分がこれまで私にいわれ続けてきたことをそのままいった。
「あれはね、毒。食べたら病気になるの」
すると次女がよだれと涙を両方たらしながらしつこくせがんだのだ
「まゆたん、どうしてもあの茶色いのを食べたい! 茶色いのを食べて、ビョーキになりたい!」
私は脱力した。
気づけば、私の「食卓から健康によくないものを全部排除する主義」は、食べることを楽しくない行為にしてしまっていた。おいしいものを、楽しく食べることをなおざりにしていた。そして子どもたちの社交さえも阻害していた。かくして、私は「食べる楽しさを優先し、身体によくないものはできる範囲で排除するにとどめる」方向へと転換した。 |