
我が家の食卓で「人をいらつかせる言葉」という話題が出たとき、大学生の娘が「私が一番ムカつく言葉は、人のいうことにいちいちうなずきながらの『そうだねぇ』というあいづち」といった。よりにもよってあいづちとは! さすがにそれには「そうだねぇ」とはいえず、「それはまた、なぜ?」と聞いた。
「『そうだね』というのは、人の意見に賛成や共感するという積極的な姿勢をあらわす言葉のはずなのに、ただ人と意見が衝突することを避けたいだけでいっている人が多すぎ」というのが彼女の理由だった。
映画『パッチギ LOVE&PEACE』の出演者のポートレートとプロフィールを紹介した写真集である本書のページをめくりながら、この映画をつくった井筒和幸監督も、きっといまの日本社会にあふれている「そうだねぇ」を苛立たしく思っている一人ではないか、と思った。
だいたいにおいて、タイトルから「パッチギ!」である。簡単にいえば頭突き。真正面から相手の頭に自分の頭をぶつけていくという、ある意味非効率なケンカ戦法だ。井筒監督は「パッチギは自分を痛めつけながら、相手にぶつかっていく。ある意味公平なケンカ」といっている。暴力がいいかどうかは別にして、相手と自分はちがうということを認め、正面からぶつかっていくという姿勢は、あいまいなあいづちによって問題そのものから逃げるよりははるかにいい。
相いれないものがあるのだけれど、とりあえず共存しなくてはならないもの同士が、どうやって関係を結んでいこうかと考えるとき、一番簡単なのが圧倒的な力でねじふせて支配VS被支配の関係をつくってしまうことだろう。だが、そんな圧倒的な力による関係が永続しないことは、人類史をひもとけば一目瞭然だ。
相手を認め、相手にも自分を認めさせ、お互いのちがいを理解し容認しながら共存する「大人の関係」をつくるために必要なこと。それはパッチギ=ぶつかりあいなのではないだろうか。少なくとも、心のなかで思っていることとは裏腹に相手に迎合したり、もっと悪いことに、相手に背を向けて存在を見ないようにする無視の姿勢さえあらわしているあいまいな「そうだねぇ」といううなずきではないことはたしかだ。
映画の登場人物一人ひとりのプロフィールに目をこらしながら思ったこと。自分を生かす生き方をするために、自分とはまったくちがう考え方や生い立ちの人たちの生き方に「パッチギ!」することから始めたい。うなずく前に、まずぶつかっていきたい。
『パッチギ LOVE&PEACE Another Story』
バジリコ Photo 佐藤ヒデキ 文 大谷隆之
¥1,575(税込)
監督:井筒和幸(「のど自慢」「ゲロッパ!」)
脚本:羽原大介(「フラガール」)/井筒和幸
出演:井坂俊哉、西島秀俊、中村ゆり、藤井隆
配給:シネカノン
©2007「パッチギ!LOVE & PEACE」パートナーズ
2007年5月19日よりシネカノン有楽町、渋谷アミューズCQNほか全国にて公開中!










