売れっ子の漫画家で、家庭的な父親。 大学でダンテの『神曲』について教える理知的な母親。
愛されてすくすくと育ったティーンエイジャーの娘。
一見、なんの問題もない明るい普通の家庭に、ある日事件が起きる。
女性の友人の家に泊まりにいっていたはずの娘のトリクシィが、「元カレからレイプされた」と言って明け方に帰ってきたのだ。
蒼白になった父親のダニエルは娘を病院に連れていき、警察に事情を話したことから、コトは裁判沙汰になるまで大きくなった。
娘を病院に連れていく道すがら、必死になって妻のローラの研究室と携帯に電話をかけつづけたダニエルだったが、結局朝まで連絡はつかなかった。そこで膨らんでいく妻に対する疑惑。
だがそのダニエルにも、エスキモーの村で育ったときのいまわしい過去があり、それを家族にもひた隠しに隠してきたのだった。 家族全員が、ほかの家族にも言えないほどおぞましい自分の秘密を守るために、ウソにウソを上塗りしていく。「あなたのことはどこまでも信じているから」という言葉を口に出している本人が、一度ついてしまったウソのために自分自身さえも信じられなくなっていってしまう。やがてウソがばれたとき、「家族なのに、なぜ本当のことを言えないのか?」とお互いを責めるのだけれど、「家族だからこそ、本当のことを言って傷つく姿を見たくない」のだ。
やさしく家族思いの夫、かしこく美しい妻、そしていい子という役割を必死になって演じていた家族に突きつけられたのは「破綻のないウソなどありえない」ということ。結局、全員が家族ごっこの恐ろしさに気づいたときには、理想的だったはずの家族は完全に崩壊し、周囲の人を取り返しがつかないほど傷つけてしまっていた。

ジョディ・ピコーはアメリカで人気のある多作な作家で、どの作品でも社会の隠れた問題に鋭く切り込んでいる。ドラマチックな展開と、登場人物の複雑な人間性を破綻なく描く筆力で、読者をぐいぐい引っ張っていくストーリーテラーだ。
本作品は日本で2冊目の刊行だが、前作の『わたしのなかのあなた』と同様、家族の抜き差しならない関係を扱った緊迫感のある本作品もきっと話題を呼ぶだろう。
(text / motoko jitukawa)
『偽りをかさねて』
ジョディ・ピコー著 羽地和世訳 早川書房
各\1,980(税込)
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