旅が好きだ。旅から帰ってきて、写真を整理して、使ったお金の計算をして、おみやげを配って、感想文と反省文を書いて、完結した気分になったら、もう「つぎはどこへ行こうかな?」と考え始めるほど、旅が好きだ。
ほかのことはともかく、旅に関しては周到に計画を練る。まず、行ってみたいと思った地のことを書いた小説やエッセイをかたっぱしから読み漁り、余計に行ってみたくなったらガイドブックを買ってきて通読する。ところが最近は、行きたい気持ちを後押ししてくれるようなガイドブックが少なくなった。むしろ、旅ごころに水をかけるような内容が多くなった気がする。インターネットが普及して、旅の情報は政府や自治体のレベルから口コミにいたるまでクリック1回で検索できるようになったいま、ガイドブックには情報以上にもう少し「読ませる」内容がほしい……なんてそんなことをガイドブックに求める旅好きは少ないのかな。
村上春樹、吉本由美、都築響一のクセモノ三氏が、名古屋、熱海、ハワイ(ホノルル)、清里、サハリンという、これまたクセモノの観光地に出かけて、いかにも観光客がやりそうなことを体験したルポが本書だ。まちがっても旅情報を期待してはいけない。これを読んで、人気レストランとか土産物を探してもまったく意味がない。なぜなら「これが楽しい!」「これはおいしい!」ということは、ほんのたまーにしか書かれていなくて、しかも「いいって言われてもなぁ……」とひるんでしまうような書き方だからだ。だっていくら「ヤダ、もううま~い」と言われても名古屋のエビフライバーガーには手が出ないし、トドの楽園を見学するためにサハリンまで船に乗るのもちょっと尻ごみする。
でも、本書は私が求めるガイドブックだ。旅ごころをくすぐってくれる。やっぱり旅に出ないとね、企画だけじゃ旅したことにならないよね、とさっそく列車や飛行機のチケットをとる気になる。旅をする喜び(「ああ、来てよかった」と心の底からふつふつわき起こってくるような感情)は、自分の足で歩き、自分の眼で見て、自分の頭で考えないことには、味わえない。ネットの旅情報がどれほど詳しくても、それは情報でしかない。ガイドブックには情報だけでなく、「旅には喜びがあるんですよ」ということを示唆してもらいたいのだ。

あとがきで都築氏も書いている。「どこかへ行っておもしろがるというのは、その場に身を置けば、なにかがやってきてくれるというような受動的行為ではなくて、どうやってここをおもしろがろうとみずから動き回る、能動的な行為なのだ。つまらなく見える町を、なんとかおもしろがろうとする努力。つまらなく見える人生を、なんとかおもしろがろうとする努力。このふたつには、たぶんほとんどちがいがない」。さーて、つぎはどこに旅しようかな?
(text / motoko jitukawa)
『東京するめクラブ 地球のはぐれ方』
村上春樹 吉本由美 都築響一著
文春文庫/\1,050(税込)
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