映画であれ、小説であれテレビであれ、ホラーものは全部大嫌いだ。怪奇現象についての話題が出ると耳をふさぐし、怪談なんてとんでもないし、お化け屋敷にも行かない。それくらいコワイ話が嫌いなのに、この本はなんとなく惹かれて読み始め、気がつくと朝方になるまで読みふけっていた。
私が夢中になって読んだからといって、この本に収められている短編のどれもがコワクナイというわけではけっしてない。それどころか、コワイ。とてもコワイ。ある朝起きたら突然、自身の皮膚がとけて、得体の知れない昆虫にふ化してしまった少年を描いた『蝗の歌を聞くがよい』、学校に転入してきた風船人間とのほろ苦い思い出をつづった『ポップ・アート』、よくわからない理由で暴力をふるう父親の恐ろしい実態を知らされ、恐怖におののく兄弟の「復讐」を描いた『アブラハムの息子たち』、「サヴァン症候群」の弟がつくった段ボール箱の秘密基地に入り込み、抜け出せなくなる恐怖を描いた『自発的入院』など、17話のどの話もとってもコワイ。主人公が恐怖のあまり流す脂汗のにおいがページの向こうから伝わってくるほどだ。(とくに『自発的入院』は必読の傑作!)
それなのに、なぜこんなにもひきつけられるのだろう……と読後、しらじらと明けていく窓の外の空を見上げながら考えて、ふと気づいた。ホラーではあっても、人の「心の闇」を描いた文学だからだ。
1972年アメリカメイン州生まれのジョー・ヒルは、2005年に突如ホラー文学(というジャンルがあるとしてだが)の世界にあらわれ、多くの賞を獲得するなど高い評価を得て多くの読者を魅了した。クリストファー・ゴールデン氏による序文や、東雅夫氏による解説を読めば、ホラー・怪奇小説の分野で、彼がいかに新しい境地を開いたかがよくわかるだろう。
そういうことはさておき、私が感じ入ったのは、この傑作選の小説の「恐ろしい」もしくは「狂った」モンスターが、どれも自分の心のなかにひそんでいるらしきものだからだ。人の想像力がつくりだした陳腐な怪物や幽霊ではなく、人の心の奥底にあるなまなましい、くろぐろとした魔物が、何かをきっかけに目に見える形(ときには目には見えないが、五感で感じる)となって飛び出してくる。そこがとてもとてもコワイ。自分の心に強烈な照明があてられて、影もできないようなしらじらとした空間のなかで、おそろしいものがうごめいている。そんな感じがする。

だが、そんなものを突きつけられても不快ではないのは、エンターテイメントとしてのレベルが高いからだ。ホラーは苦手。怪奇現象なんて信じない。そういう人にこそ、この本は読んでもらいたい。ホラーのなかに、これだけ高い文学性があることがよくわかるだろうから。
(text / motoko jitukawa)
『20世紀の幽霊たち』
ジョー・ヒル著 白石朗ほか訳
小学館文庫
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