小学6年生まで、私の夢は「どこか下町にある小さな本屋の番台(?)に座って、一日中本を読んだり、モノを書いたりしながら過ごすこと」だった。小学生にしては地味かもしれない。
後半部分はみごとかなったわけだが、前半部分はまだ実現していない。
そして、本書の著者である松浦弥太郎さんは、幼いころに私が夢見ていたことを、夢に終わらせずに地道に実現していったかただ。
『就職しないで生きるには』という本がきっかけだった、と松浦さんは冒頭で書いている。
レイモンド・マンゴーという人がシアトルで小さな本屋を開くまでのいきさつを書いた内容で、当時、「本当のこと」を探して結局高校をドロップアウトし、アルバイトしながらもんもんとしていた松浦さんはこの本の著者の生き方に、またアメリカの自由とふところの深さに感動した。やがて単身アメリカに渡り、帰国してアメリカで買い求めてきた本をアーティストやデザイナーに売る仕事を始め、「エムアンドカンパニーブックセラーズ」を開業し、執筆活動も始め、2006年より『暮らしの手帖』の編集長になる……と書けば、なんだかすごいサクセスストーリーに聞こえるだろうが、本書を読めば松浦さんが仕事や生きることや人に対して、どれだけ真摯に、もっといえば「本当に正しいこと」をつらぬいてきたかがよくわかる。
中目黒(南青山にもあるが)のカウブックスはたまたまのぞいたことがあって、おもしろい品揃えの本屋(もしくは古本屋らしくない古本屋)だと思ったことがある。こういう本屋をやってみたい、という若者がいっぱい出てくるといいな、と思っていたら、意外な場所にぽつぽつと似たような古本屋が出てきた。本屋を見ると、電柱を見つけた犬のごとくマーキングしないではいられない習性がある私は必ずのぞいてみるのだが、そこには7割の確率で小さい声でしか挨拶しないシャイな若者が座っていて、おや、きみも本が好きでこんなこと始めたんですね、とうれしくなる。
何かやってみたい。でも、どうしたら始められるかわからない。お金もないし、経験もないし、才能もないかもしれないし……と立ちすくむ若者の背中を、松浦さんはそっと押している。
「何も持っていなくても、何かはじめられるはずだと思う。世間一般でまかり通っている常識に縛られないで、今の自分にできることからはじめればいいんだってことを、僕がやっていることから感じてもらえればいいと思います」
謙虚でいて力強いこんな言葉を読んだとき、もう若者とは言い難い年齢の私まで、たしかに背中を押してもらって、そうだ、やりたいことはちゃんと始めてみよう、という気になった。
もう一つ、繰り返し本書では「続けていくこと」のたいせつさが書かれている。
私はモノカキという仕事をしているわけだが、誰かに命令されて始めたわけではなく、かといって食べるためにやむなくやっているわけではもちろんなく、でも楽しいことと苦しいことを天秤にかけると苦しいことのほうが多く、もしかしたら私はモノなんて書く資格はないんじゃないかと一年のうち300日くらいは悩む。そんなとき「とにかく今日は続けよう」と、無理やりにでもパソコンの前に座ってまた書き出す。
だから、どんな仕事についていても「最終的にいちばんだいじなのは、個人としてどれくらいふんばれるか、ということなのだと思います」という松浦さんの文章には励まされた。これからは、つらいとき、苦しくなったとき、やめちゃおっかなあとふらふらしたとき、思い出して、続けていく元気を取り戻したい。
(text / motoko jitukawa)

『最低で最高の本屋』
松浦弥太郎
集英社文庫 ¥560(税込)
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