時間的には十分睡眠は足りているはずなのに寝不足のように頭が重く、散らかった部屋にヘドが出そうなのに掃除をする気力も体力もなく、お腹がすいているのに食べたいものが頭に浮かばず、玄関で「お荷物です!」と声がするけれどあまりにひどい格好なので出ていくこともできない……そんな日には西加奈子の小説である。
読んでシャキッと元気になるわけではない。「私は私のままでいいんだ」なんて生ぬるいやさしさにひたれるわけでもない。(だいたいにおいて、どんより気分のときにカンフル剤みたいな小説を読んだら副作用が出ますよ)。でも、西加奈子の小説には、自分の体臭がしみついたジャージーを脱いで、洗濯したてのTシャツに袖を通したときのような爽快感がある。「ま、明日も日がのぼる。いつかいいこともあるさ」と開き直れるような力を与えてくれる。
たぶん「さくら」のころから読んでいるのだが、最初のころの小説はちょっと背伸びした「若さ」についていけなかった。言葉の感覚も、物語構成も、私の肌にはあわなかった。おこがましくも「青いんじゃないの?」なんて思っていた。だが、「通天閣」を読んだとき、「西加奈子はホンモノかもしれない」と見直した。
西加奈子の小説は「体当たり」だ。登場人物(たいてい私という一人称で書かれている)が喜怒哀楽をふくめたすべての感情を体にどんとあたってくるような衝撃として受け止めるので、読んでいるこちらまで内臓が飛び出してきそうな、そんな感じがする。きれいな言葉で言えば「生理的」と言うのだろうが、そんな繊細な感覚的なものでなく、もっと肉体の内臓部分にまで響くような感覚だ。

そんな筆致のせいか、私は西加奈子の小説を読み終わるとどっと疲れる。でも、爽快感がある。そう、やはり洗濯したてのTシャツを着たときのような気持ちよさだ。理由もなく疲労感に襲われたとき。自己憐憫にあきあきしたとき。西加奈子の効き目をお勧めしたい。
(text / motoko jitukawa)
『しずく』
西 加奈子 著
光文社文庫 ¥520(税込)
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