“着る”という実用性を持った服は、鑑賞の対象であることが多いアートとはどこか違った色を帯びている。だが、洗練されたフォルムの中にデザイナーの個性がしっかりと表れた服に出会うと、ファッションもアートの一部として捉えることができる。
(写真上)波を表す立体的な袖をシリコンワイヤーで実現 ワンピース \388,500、シューズ \131,250
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2008年秋冬シーズンにソフィア・ココサラキが発表したコレクションは、まさにそう思わせてくれる服が目白押しだ。ダークな女性らしさをコンセプトに、ファンタジーアートから得たエッセンスを取り入れたアイテムの数々には、ギリシャ風の神秘的なイラストや、刺繍、ペイントなどが用いられている。さらに、ファンタジーに登場するヒロイックな戦士を連想させるフォルムを実現させるべく、クラシカルで伝統的なツイードやウールにシリコンワイヤーやテクノジェルなどを組み合わせた新素材が使われている。
このように伝統的な視点と現代的な視点とを併せ持つ斬新さは、ソフィア・ココサララキが得意とするスタイルだ。その根底にあるのは、彼女自身のルーツであるギリシャ文化と、才能を花開かせた英国・ロンドン文化との融合。彼女自身は自らの文化的バックグラウンドを意識していないと言うものの、評価の高い美しいドレーピングや繊細なツイスト、バイアスカットなどに古代ギリシャの感性が息づいているのだ。
ソフィア・ココサラキは1972年にアテネで誕生。子供の頃から服を描くのが好きだった彼女は、祖国でギリシャ文学と英文学の学位を取得すると、数々の有名デザイナーを輩出したロンドンのセントラル・セント・マーティンズ・カレッジへ。1998年にウィメンズウェアの修士号を取得。エレガントで洗練された作品はすぐに注目を集め、世界で最も将来を嘱望されるデザイナーの一人に選出された。翌年にはロンドンコレクションでデビュー。各国の関係者から絶賛され、「ベスト・ニュー・デザイナーズ・アワード 2001」を始め数々のアワードを受賞。さらに英国の「クール・ブランド・リーダーズ」トップ10入りを果たすなど、順調にキャリアを重ねている。
フランスのクチュール・メゾン「Madelaine Vionnet」のデザイナー経験、ロンドンの「TOPSHOP」、日本の「デサント」などとのコラボレーションも世界への扉を開いたが、彼女の名を知らしめたのは、何と言っても2004年のアテネオリンピックだろう。開会式のパフォーマーや聖火ランナーたちが纏ったコスチュームを手掛けたことで、一躍有名に。その後、パリコレクションにも参加し、名実共に人気デザイナーの仲間入りを果たした。
そんな彼女のインスピレーションソースは数限りない。アートや建築、文学など、ジャンルや国を問わずさまざまな文化に造詣が深いのだ。ファッション中心ではないバックグラウンドが、独創的なアイディアへと繋がり、独自のクリエーションの源になっていることは間違いない。
また、布を自由に操る技術にも定評があるが、そこには素材を大切にする想いが関係している。「素材によって、同じデザインが良くも悪くもなる」と常日頃から語っている彼女は、徹底的に生地にこだわり、そのために時間をかけてリサーチを行うことでも知られている。
そして、その生地を最大限に活かすための技術開発にも余念がない。例えば2008年秋冬のドレスには、伝統的なシフォンにシリコンワイヤーを縫いこんだ素材を使い、袖に立体的なフォルムを生み出したものが見られる。そのほかにも、新素材を用いて、建築や彫刻を思わせる数々の造形的な美しさを実現させた服がラインナップされている。
「まずは、テクニックからはじまる」というのが、彼女の哲学。感性だけでなく、努力も怠らないソフィアだからこそ、アイディアを理想どおりに実現することが可能なのだ。
服作りの際にソフィアが思い描いているのは「確固とした理想を持つ、フェミニンな女性」。そんな女性に向けて「機能的でありながら、着る人を特別に見せられる服を作りたい」というのが彼女の願いだという。ジェニファー・ロペス、クロエ・セヴィニー、キルスティン・ダンスト、クリスティーナ・リッチー、コートニー・ラヴ、そしてヘレン・ミレン。ソフィアの洗練をこよなく愛する顔ぶれを見れば、その願いが現実のものとなっていることは疑いようもないのである。
(text / june makiguchi)
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