アジア系デザイナーの台頭が目覚ましい昨今のN.Y.ブランドにおいて、ある意味「ドゥー リー」の存在は希有かもしれない。幾度となく消費されるトレンドの世界、マーケティングに裏打ちされたN.Y.という土壌に身を置きながらも、周囲に惑わされることなく確固たるスタイルを持ち続けているのは、真にぶれないスピリットを持っているからだ。今や「ドゥー リー」のシグネチャーとなっている“ドレープ”は、かのマドレーヌ・ヴィオネと比してか「ドレープの女王」と称されるほど世界的評価が高い。多くを語らず、これみよがしな華やかさも好まない彼女のスタンスには、“静謐”という言葉がしっくりはまる。
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アメリカで生まれ育ったドゥー・リー・チャンは、韓国人であるというバックグラウンドよりも、N.Y.の街の息吹から吸収したさまざまなインスピレーションを服作りに投影している。名門パーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業後、アメリカンクラシックを代表するジェフリー・ビーンの元でインターンを経験。5年後にはメインデザイナーの地位にまで上りつめた。そして、2003年に初めて自分の名を冠したコレクションを発表。それからは、レーベルを設立して1年もたたないうちにCFDA/ヴォーグファッション基金の最終選考にノミネートされるなど、アメリカデザイン界を牽引する次世代デザイナーとして目覚ましい快進撃を続けている。
(左写真)デザイナーのドゥー・リー・チャン
そして、2009年秋冬シーズンから新たにセカンドラインが登場する。「under.ligne(アンダーライン)」というレーベル名は、デザイナー自身がこの言葉の響きに惹かれたから。過去のファーストラインでベストセラーを記録したパターンを、もうひとつの彼女の得意分野である、ジャージー素材やレザーに置きかえ、もっとデイリーユースに、多くの女性に手にとってもらえる価格帯に設定したのが何よりの魅力だ。
ブラック、グレー、ホワイトで構成されたTシャツやドレスは、ストリートの要素も汲みつつ、深めの切り替えやアシンメトリーなど、随所にドゥー リーが考えるフェミニン的テクニックが盛り込まれている。彼女自身は元々このセカンドラインの立ち上げには反対だったというが、100年に一度と言われる大不況の影響と新ラインデビューという話題性が相まってか評判は上々。海外メディアにも多く取り上げられ、バイヤーからのオーダーも殺到したというのだから、日本のセレクトショップにお目見えするのが今から楽しみだ。
(右写真)アンダーラインのイメージブックより。撮影は魂の宿る写真で注目を集めるフォトグラファーDietmar Busse(ディートマー・ブッセ)
ドゥー リーは、常に“新しい手法”を模索している。「創作のプロセスにおいて常に念頭においているのは固体と液体の融合」と語るように、例えばソリッドな素材とドレープのドレス、ウールの身頃とオーガンジーの袖が組み合わされたジャケットなど、素材やフォルムのリ・コンストラクションをストイックなまでに追求している。ランウェイで発表された最新コレクションでは、ニッチトレンドとして注目のヒストリカルデコレーションを彷彿させるような付け襟や「BE&D」とコラボしたバッグなど、初の試みも興味深い。
また、コレクションの世界観を表現するにあたってはスタイリストの影響も大きい。ドゥー リーはここ数年『ニューヨークタイムズ』で活躍するアン・クリステンセンにスタイリングを依頼している。デザイナーが生み出す服に時代の空気感を加え、絶妙なバランス感覚で人々が潜在意識のなかで求める“今”にアップデートするのがスタイリストの役目。鋭い審美眼を持つアンの“時流を読む目”にはドゥー リー自身も絶大な信頼を寄せており、ファーストラインはもとより「アンダーライン」のイメージブックにも彼女を起用している。毎回シーズンテーマは設けず、アーティスティックな感覚とN.Y.らしいリアル感がクロスオーバーしたドゥー リー独特のテクニックは、ほかに代われないポジションを確立したと言えるだろう。
(text / yoko kondo)
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