ベルギーのアントワープといえば、“アントワープ6”を世に送り出し、その後も多くの才能を輩出している、ファッション界の小さな大国だ。
A.F.VANDEVORST(エー・エフ・ヴァンデヴォースト)もアントワープを代表するクリエーションのひとつとして、常にファッショニスタたちから熱い視線を注がれているブランド。デザイナーは、アン・ヴァンデヴォースト(An Vandevorst)とフィリップ・アリックス(Filip Arickx)。アントワープ王立アカデミーで出会った同級生コンビが息の合ったコラボレーションを見せている。
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AFの誕生秘話について、フィリップがveritaに語ってくれたところによると「出会いは1987年」とのこと。「お互いが病院もののデザインや美学が好きという共通点に気が付きました。僕は12才の頃から病院のオブジェ、家具などを集めていましたが、初めてアンの部屋に行った時、彼女もその美学に情熱的な思いがあると確信しました。発端は、レッドクロスから影響を受けたジョセフ・ボイス(Joseph Beuys)の作品にあります。当然のように、レッドクロスがA.F.VANDEVORSTのロゴになり、私達にはクロスの形がシンプルで強いものだと感じています。十字のシンボルが人間的であり、普遍的なメッセージを持っていると思っているんです」
フィリップは卒業前からダーク ビッケンバーグ(Dirk Bikkembergs)で研修を行い、卒業後もフリーランスでデザイナーやスタイリストとして活動。アンは卒業後、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)の第一アシスタント、さらには靴のデザイナーとして活躍していた。そんな二人が、ブランドをスタートさせたのは1998年。パリで初めてレディースコレクションを発表し、権威ある“Venus de la mode”の“Future Grand Createur”を受賞。イタリアブランド、ルッフォ・リサーチ(Ruffo Research)のデザイナーに抜擢されるなど、さっそく話題を振りまきはじめた。
(右写真)デザイナーのアン(右)とフィリップ(左)
そんな二人が、大躍進するきっかけとなったのは、NYでオペラ『Alice in Bed』の衣装を手掛け、US VOGUEの編集長アナ・ウィンターからも絶賛されたため。その後もオペラの衣装デザインだけでなく、メトロポリタン美術館で作品展を行ったり、NYのFITでプレゼンテーションを行ったり、美術館のキュレーターを務めたりと、ジャンルやフィールド、形式にとらわれない活躍を見せている。
ブランドの特徴となっているのは、活動スタイルからもわかるように、独特のアート感覚だ。なかでも、“二面性”はAFの服作りの基本コンセプト。いろいろと形を変えていく服が特徴だが、創作の理由をフィリップはこう話す。
「同じアイテムでいろいろな着方が出来るように考えています。ボタン一つだけで洋服の形や用途を変えていくのはとても面白いことだと思います。そのおかげで、ワードローブを自分で変えていく、自分でクリエーションが出来るということです」
そんなAFのミューズとは。
「オープンマインドな女性! 詩的なでありながら、ワイルド。二面性を持った女性像を描いています」
2010SSでは、2009AWに引き続き、砂漠の嵐の中を歩く遊牧民を描いている。正方形、三角形、円形などのシェイプを用い、肩や腕に丸みをもたせたスタイルは前コレクションからの継承だが、春夏らしくシルクシフォンやサテンなど風の軽やかさを感じさせる素材を用い、構築的でフェミニンなシルエットを打ち出した。
(右写真)プレコレクションライン「Blackboard」2010SSより
大成功を収めたこのコレクション以外にも、AFには注目すべき点があまりに多い。二人が持つ冒険心と、溢れんばかりのクリエイティビティが、様々な形で実っているのだ。2003年にはシューズコレクション「Fetish(フェティッシュ)」を、2006年にはランジェリーコレクション「Nightfall(ナイトフォール)」、「Fetish」のメンズラインを立ち上げるなど、その活動はとどまるところを知らない。
また、メインのコレクションと平行して、プレコレクションライン「Blackboard(ブラックボード)」と、よりリアルでより購入しやすいディフュージョンライン「A.FRIEND(エー・フレンド)」も2010年SSからスタート。「Blackboard」は、AFの世界観をさらに広げるために展開したもの。ブランドのミューズであるアーティストのボイスが、自身の作品に黒板と白いチョークを多用していたところから生まれた。2010-11AWでは、実際にテーマを“黒板”とし、黒板から連想される学校→実験のイメージを最大限に反映。実際に、チョークを入れるくぼみがいくつもついたジャケットやシャツを作ったり、黒板の色を思わせるダークカラーをグラデーションで表現したりと、実験的な側面を持たせた。
一方、「A.FRIEND」は、友人たちからインスパイアされた、友人たちに似合うコレクション。以前から友人が欲しがっていたもの、これからワードローブに加えたいものなど、友人関係の中で生まれたものでよりリアル。価格もより気軽なものとなっている。いずれも、ジャージー素材やニットウエアで構成されたコレクション。メインラインと変わらないエネルギーとクリエイティビティが注ぎこまれているので、AF初心者はぜひこちらを手にとってみて。
(左写真)ディフュージョンライン「A.FRIEND」2010SSより
また、新ラインとともに、やりたいことを自由に行うというブランド精神を象徴するプロジェクトとして登場したのが、2009年12月にアントワープでオープンした「GUERILLA STORE AKITON 1」。AFの世界観、ファッションはもちろん、ファッション以外のプロジェクトも体感できる空間作りを目指したもの。
「この限定期間ギャラリーショップはいろいろな街に移転していきます」とフィリップ。アントワープでは、2010年3月31日まで。
創作のスケールが、年々拡がっているAF。それでもベルギー・アントワープを拠点としてこだわり続ける理由とは?
「アントワープは私達のプライベートライフから社会的ライフまである街です。この街にはたくさんの友達がいるので幸せです。その幸せがクリエーションに繋がっているんです」
最後に、フィリップに最も心がけていることを聞くと。
「二人の関係を大事にすること。二人が良い関係を築き、思いが強くなるほどに、それが一つのクリエーション、モノづくりに繋がりますから」
(text / june makiguchi, photo / top visual : Ann Vallé, portrait : Ronald Stoops, 2010SS runway : Etienne Tordoir)
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