cinema“忘れられない人”のパラドックス

「死ぬほど好き」「はらわた煮えくり返った」「吐くほどマズい」のように、感情が激しく動いたときに記憶は強烈に残るものらしい。
感情が豊かな私は、自慢じゃないが記憶力がいい。だが実はすぐに忘れちゃうことがひとつだけある。 昔好きだった人のことだ。

なぜその人を好きだったのか、その理由をサッパリ忘れてしまう。記憶力抜群の私が陥ったパラドックスである。
『冬ソナ』とか『セカチュー』が流行し「誰にでも忘れられない相手っていますよね」的ムードが蔓延する世の中で、私のような人間は「冷たいヤツ」とか「寂しい女だ」と蔑まれる。 肩身が狭い。 なんか釈然としない。

忘れられない相手との9年ぶりの再会を描いた『ビフォア・サンセット』を見て、このパラドックスの答えが見つかった。
とはいえ作品はさておき、ここに「忘れられない相手」がいる100人の成人がいるとする。うち53人くらいはその人との再会を望まない。自分が長年かけて相手を美化していること、それが実像とかけはなれていることに、どこかで気付いているタイプである。
次に残りの47人が実際に再会したとする。
そのうちの35人くらいは「こんなシワシワだった?」「こんなデブだった?」と、その実像に幻滅するに違いない。
“忘れられない相手”がいる多くの人は「(実像を)忘れてるから、忘れられない(未だに好きでいられる)」のパラドックスにあり、私の場合はその180度裏面だ。
ゆえに「(実像を)覚えているから、忘れちゃう(どうでもいい)」。
はー、釈然としちゃったな。 たとえ蔑まれても胸を張って生きてゆける。

さて残りの12人。 これが『ビフォア・サンセット』の主人公2人である。
9年前の出会った彼らはその時にたった14時間を共に過ごしただけで、それ以来一度も会っていない。 ほとんど“行きずり”と言っていい。
彼らが再会して恋愛テンションになれるのは、記憶の中の相手すら実像じゃないからである。
(text / Shiho Atsumi : 渥美志保blog 無意味でおバカな笑いをあなたに…)
CINEMA INFORMATION

『ビフォア・サンセット』

監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
配給:ワーナー・ブラザース映画
劇場情報:2月5日より恵比寿ガーデンシネマにて公開
(C)2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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