『理想の女』は様々な魅力にあふれているが、中でも一番面白かったのは登場人物が語る結婚論である。こんなシーンがある。金持ちで独身の遊び人ダーリントン卿が、既婚者を相手に結婚について語っている。結婚は誤解の上に成り立つ、浮気なら相手が誰でも満足……と次々と真実を突く彼に、誰もが独身のくせにやけに結婚に詳しいとフシギ顔。彼は答えて言うのだ、「だから結婚できない」。一方、主人公のアーリン夫人は“男をたぶらかして金を巻き上げるアバズレ”という悪い噂の絶えない女である。それを承知でご執心の金持ちタピィは彼女に「いろいろ知りすぎると不幸になる」とうそぶく。
物事を知りすぎている登場人物を描くのは、もちろん彼らよりもっと知っている原作者オスカー・ワイルド。彼は結婚し子供もいたけれど本当は当時禁じられていた同性愛者で、夜な夜な美しい青年を買っていた。ついには投獄され3年の強制労働を強いられ、創作意欲のすべてを奪われた上に46歳という若さで孤独に死んだ。鋭い洞察力で作品の中にあまたの金言を残した“知りすぎた男”は、やっぱり不幸だったのである。
さて問題はこの映画を見ている私たちである。テレビに雑誌にインターネット、ご親切に実体験を生告白してくれる離婚経験者の友達までいる現代社会の私たちは、生まれながらにして“知りすぎた女”。モデルばりの脚線美が自慢だった高校の同級生の結婚後の「激太り」や、美人で評判だった大学のクラスメイトの肌に表れた「育児疲れ」に衝撃を受け、十人並みの自分の結婚後を想像して戦慄する。 |