映画『親切なクムジャさん』の主人公クムジャさんは、無実の罪を着せられ 13 年の服役を強いられた女だ。彼女は自分をこんな目に合わせた男に復讐するため、刑務所で綿密かつ周到な準備を始める。後々“使える”女囚たちに恩を売るために、刑務所で要介護になった南北対立時代のスパイの下の世話をしたり、傍若無人な牢名主を 3 年がかりで毒殺したりするのである。天使のような笑顔で誰にでも優しく接するクムジャさんは刑務官にとっては模範囚だし、すべての女囚が彼女を慕っている。だが一部の、女囚たちは感謝と尊敬と恐怖のいりまじった思いでいる。彼女にはイヤと言えない。特筆すべきことはそのクムジャさんが、服役前の女子高生時代よりも、復讐者に変貌した出所後よりも、魅力的であることだ。何が彼女を輝かせているかと言えば、それは紛れもなく“復讐計画”である。
ダメな女が陥りやすい誤解は、優しさと親しみがすべてと思っていること。ついつい笑顔を安売りすることだ。クムジャさんの優しさとキラー・スマイルは手段であり戦略である。その合間合間には笑顔からは想像できない恐怖エピソードや冷たさを覗かせ、人々を不安にさせる。思わせぶりと突き放しの波状攻撃に、どうして?どうして?と悩み始めたが最後、彼女の笑顔が欲しくて人々はついつい彼女のご機嫌をとってしまう。さらに復讐しか頭にないクムジャさんは、そうやって近寄ってくる相手を誰一人として求めていない。欲しがっても欲しがっても彼女の心は手に入らないのである。復讐はこれほどまでに悪魔的魅力に満ちた人間をつくりあげてしまうのだ。 |