cinema好きになるのは、意外と“第一印象最悪な男”

恋愛ドラマの始まりには大きく分けて2パターンがある。80年代漫画の『キャンディ・キャンディ』で言えば、1つ目は孤児院時代の幼いキャンディが丘の上で出会った相手、「丘の上の王子様」パターン。いわずと知れた一目惚れで、“忘れられない人と似ている”という「アンソニー」パターンはこの変形である。もうひとつは「テリー」パターン。金持ちが女優に産ませた非嫡出子で不良っぽいカッコつけ男、その名も大仰なテリュース・G・グランチェスターは、出会いの印象は最悪なのだが、この恋はキャンディにとっては運命の恋になる。イジメてるうちにキャンディを好きになっちゃう「ニール」パターンはこの変形だ。最近の例で言えば『冬のソナタ』のチュンサンはテリーでミニョンはアンソニー、『美しき日々』のミンチョルはテリー、『生徒諸君』の飛島さんは丘の上の王子様で沖田君はテリー、『愛と誠』の誠さんはテリー…とかなりディープになったが枚挙にいとまがない。

「丘の上の王子様/アンソニー」パターンは理解しやすいが、分かりにくいのは「テリー/ニール」パターンである。だがこれは心理的には理屈の通ったものらしい。第一印象が最悪の場合、少しでもいいところが見えると相手に対する見方がパタンと裏返りやすい。そして恋が終わる瞬間にはこの逆のことが起こる。最高と思っていた人のイヤなところが見えると、パタンと反転してすべてが最悪に見えてくる。真っ黒い紙にポツンと白い点があれば、人間はそこにしか目がいかなくなってしまうものなのだ……と理屈で説明したって「そーかなー」と思う人、いるでしょう。

そんな人に見て欲しいのが、映画『クラッシュ』である。映画中盤に、第一印象が最悪の人間のイメージが、見事に“パタン”と反転する感動的な瞬間が訪れる。オスカーで脚本賞を取りそうなこの作品はすべて素晴らしいのだけれど、実はこの“パタン”をヴァーチャルに体験するだけでも、見る価値のある映画である。
(text / Shiho Atsumi )

『クラッシュ』

監督:ポール・ハギス
出演者:サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロンほか
配給:ムービーアイ
劇場情報:2月11日よりシャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国にて公開

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