cinema「冬ソナ」「愛ルケ」、「踊る大捜査線」、そして「ブロークバック・マウンテン」

誤解を恐れず言い切るが『ブロークバック・マウンテン』は「やおい」だ。「やおい」とはボーイズラブ系マンガが好きな女子が美少年キャラをからませて独自に作った「ヤマなし、オチなし、イミなし」の作品、もしくはそれに類する作品のこと。作品のクオリティよりも“からみ”を第一義とするスタンスがジャンル名からも見て取れるが、中にはヤマもオチもイミもあるウェルメイドな「やおい」もある。カウボーイ2人の20年を越える秘密の関係を描いた『ブロークバック・マウンテン』は、原作はピュリッツァー賞受賞の女性作家、監督はカンヌの受賞者、当然ながら実写版で、演じるのはヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールというハリウッドで最も旬なオスカー候補2人組。キング・オブ・「やおい」といっても差し支えない。

だがこれは必ずしもマニアの世界とはいえない。男同士の絡みなんて……という人でも、『踊る大捜査線』シリーズの青島と室井の関係に感動しちゃう人は結構多いだろう。その気のスミレさんを長きにわたって軽くいなし続ける青島、たいした用もないのに青島に会いに来る室井、「教えてくれ室井さん」と切なく叫び続ける青島、挫折感にうちひしがれる青島を物陰からそっと見守る室井――『踊る』ファンはそうとは意識していないが、この関係はまぎれもなく絡みのない「やおい」。「男の友情って羨ましい」という感覚は「やおい」ファンの発想と根本的に同じである。ロシアの喜劇王グルーチョ・マルクスによれば人間が「入りたいのは、自分を入れてくれないクラブ」であり、人間は自分が入れない、手に入れられない世界にこそ憧れる。

「冬ソナ」で純愛に憧れる主婦、「愛ルケ」で不倫に興奮するオヤジと同じで、その内部事情やリアルな姿を知らないからこそ美化してさらに萌えるのである。思い出すのは番長・清原だ。ルーキー時代に振られた彼は、恋焦がれ続けた巨人についに入団した。だがそこでかなりのドロ水を飲んだに違いなく、巨人を退団した最近の清原はつき物が落ちたように朗らかだ。男女だろうが男男だろうが清原巨人だろうが、恋愛の内側はキレイなばかりではない。それが描かれているから『ブロークバック・マウンテン』がウェルメイドなのだ。入り口は「やおい」だが堂々とした「恋愛もの」なのである。 (text / Shiho Atsumi )

『ブロークバック・マウンテン』

監督:アン・リー
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホールほか
配給:ワイズポリシー
劇場情報:3月4日シネマライズにて先行公開、18日より全国拡大公開
(C)2005 Focus Features LLC/WISEPOLICY

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