「若い子が、洋画を見ないんですよ」とボヤいたのは、某外資系映画会社の宣伝ウーマンである。マーケティングによれば若い子は概して“外の世界”に無関心で、パスポートの所有率も低いらしい。大学時代に“ド貧乏旅行”で海外旅行を覚えた私は、今でも年に何度かは“まあ貧乏旅行”で海外に行っている。自分が昔からそうなので、今の若い子が海外に行かないなんてちょっと信じられない。不思議だなあ。
映画を見て「ここに行ってみたいな」と思うことは、結構ある。そんな私に猛烈な“旅心”を駆り立てた映画が『落下の王国』だ。一種のファンタジーであるこの作品は、ある点で他のファンタジー作品と決定的に違う。空想世界として映し出される場所のすべてがCGでなく、地球上に実際にある場所なのだ。湖を抱く七色の山並み、幾何学模様を立体化したような遺跡、絶海の海に浮かぶ小さな砂浜と珊瑚礁……それがことごとく美しくて不思議である。世界24カ国以上でロケを敢行(というか、監督がCM撮影で海外に行くたびに、撮りためたらしい)した作品は、数カ所の世界遺産を含め、多くが初めて見るような風景ばかり。地球には見たこともない世界がまだ無数にあり、そのほとんどを自分は知らない。「行ってみたい」と思うと同時に感動するのは、そのことだ。旅の感動そのままなのである。

国内旅行は良くも悪くも意思が通じすぎる。楽だ。海外だと「なんでそーなるの?」という展開が多々あり、それに苛立つ人もいるかもしれない。私はといえば、スペインでは1日5回の食事に、イタリアでは飛行機の1時間遅れに、アメリカでは子供扱いされることに、けっこう馴染めてしまう。むしろ、日本とまったく違う常識や価値観がある世界があることにホッとする。だってそれは、今いる社会の常識が自分を評価しなくても、まったく違う常識を持つ別世界が地球の裏側にあるってことだから。「日本じゃ地味でもサイパンじゃ美人」ってヤツで、自分が囚われていた価値観なんて“ヘ”みたいなもんだと思える。だからモヤモヤしてる若い人も旅に出ればいいのになあ。もちろん、モヤモヤしてる大人も。こことは違う別世界は、ゲームや妄想のバーチャル・ワールドだけでなく、リアル・ワールドにもまだ残されているのだ。
(text / Shiho Atsumi )
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『落下の王国 - The Fall -』
監督・脚本:ターセム
脚本:ダン・ギルロイ ニコ・ソウルタナキス ターセム
出演:リー・ペイス カンティカ・アンタルー ジャスティン・ワデル
配給:ムービーアイ
劇場情報:2008年9月6日よりシネスイッチ銀座、渋谷アミューズCQN、新宿バルト他全国順次公開
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