ミッキー・ロークが落ちぶれプロレスラーを演じる『レスラー』は、役の落ちぶれぶりが彼自身の人生と相俟って世界中で大反響を呼んでいる映画だ。そのオープニングはすごく印象的で、映画が始まってからしばらく、カメラは歩く彼の後ろに張り付いて延々背中を映し続ける。例えば町でサラリーマンのおっさんの背中を見ても、ヨレたYシャツに汗ジミが見えてうわクサそー…って思うだけだが、これだけ長い時間背中を見せられると「男の人生は背中に現れる」という言葉がなんとなくわかる気がする。隆起した筋肉に見るのはかつての栄光であり、多くの傷跡は越えてきた修羅場の数であり、丸い猫背は老いと疲れの影を滲ませる。金髪に染めたり日サロで肌焼いたり、表側はミッキーも取り繕っているのだが、裏側は無防備なもの。誰もが人には気づかれたくない“痛さ”が、背中には出てしまうのである。
これ、もちろん男限定の現象ではない。この場面を見て以来、私は時々自分の背中をチェックしている。時にアラフォー世代が、自分はこれっぽっちも感じちゃいないのに「痛い」と思われちゃうのは、背中から出ているなんかの“汁”みたいなものに、自分だけが気づいてないからかも――とふと思ったからである。たとえばちょっとぴったり目のTシャツなんか着たときにバレてしまう、ブラジャーからの“はみ肉”。そいから背中が少し開いた服を着る時を狙ってできる吹き出物。あとあと姿勢の悪さが作り上げる丸いフォルム。要するに背中からにじみ出ている“汁”は、「最近運動してません」とか「ひー、昨日は深酒しすぎ」とか「カルビの誘惑に負けて5人前」といったような、“タダレた私生活情報”なのである。最近スポーツクラブをやめてしまった私の心に直撃である。以来、私はイケてる背中を目指し、かねてより硬くて鍛えの足りなかった肩周りを中心に、気持ち鍛え始めた。したらね、これが意外とすぐに締まってくるんだな。風呂上りの鏡の前とかで、ご満悦の日々である。

だがふと考えると、この年でタダレてなくていいのかって気もする。妙に若くて明るく元気、健全なアラフォーって、朝から全開のラジオ体操みたいだ。なんかちょっと面倒くさい。若いだけのアホ女を見ると、若くあることにどれほどの価値があるのかとも思う。疲れもタダレも年なりに――と思うんだけど、その“年なり”がどれくらいなのかわからない。ハミ肉もないが哀愁もない自分の背中、イケてるのかイケてないのか、なんだかよくわかんなくなってしまうのだ。
(text / Shiho Atsumi)
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『レスラー』
原題:The Wrestler
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド
劇場情報:2009年6月13日よりシネマライズ、TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国にて公開
配給:日活
©Niko Tavernese for all Wrestler photos
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