私が自分のお金で海外旅行に行き始めた大学生の頃、「海外で医者にかかると、とんでもない料金を請求される、へたすりゃ100万じゃきかない。だから保険に入ってください」と旅行会社に言われて以来、海外旅行に行くときは必ず保険に入っているんだけど、2年前にマイケル・ムーアの『シッコ』を見て、どうやらそれは主にアメリカの話と初めて知った。自分の無知さにまたもやもうんざりだが、たぶん多くの日本人もそうだったわけで、ということは旅行会社も保険会社もそうとは知らずに「保険に入れ」と言っていたんだろうし――いや、んなわけないか。まあかように何も知らない人間は、大なり小なり、搾取の対象になっちまうものだ。
映画が政治的なメディアだった時代を探せば、数十年前のロシアとかポーランドとかの映画マニアじゃないと知らないような作品に遡っちゃうわけだけれど、マイケル・ムーアは現代の数少ないそういう作家という気がする。それでいて面白いのがエライ。挑発的かつあざとい突撃取材が鼻につくって言う人もいるけど、この手の映画をクソ真面目に撮っても誰も見ないし、社会の啓蒙を促したいと思ってるのに誰も見ない映画作ってもぜんぜん意味ない。それに、この人が暴く情報――癒着した金持ちと政治家、時代劇も真っ青のそのあくどい手口、食い物にされた被害者たちの悲惨な現状、搾取されないために知っておくべきことなどは、あざとさなんて吹っ飛ばすほど値千金、値百万金である。
で、そのムーさんの新作が来るわけだが、テーマはこれまでの映画が描いてきた悪の根源たる問題、アメリカ型資本主義の実態について。これがまた、マジですかと言いたくなるほど、あからさまにひどい。大企業は利益を出すためなら倫理も民主主義も社会正義も、社員の命さえ(ホントに)売り飛ばし、結果国民の1%にすぎない大企業経営者が国の富の90%を独占、でもって行き着いた先が現在の失業者あふれるスーパー格差社会だというもの。こういう状況に、おかしい!理不尽だ!戦わねば!と声を上げるムーさんにまったくもって同意するのは、日本人である私にとって至極当然に思えるんだけど、アメリカでは「共産主義者!」なんて罵声を浴びせる人もいたらしい。んな、極端な。だって資本主義と共産主義の間には、おおざっぱに言ったって社会主義があるし、社会資本主義っつう混ぜた感じもある。

「犬が嫌いだ!」と言ったとたん「女々しい猫好き野郎!」と罵られるようなもんだ。猿好きだっているだろが。アメリカではこの病理的な思考回路が社会のあらゆる改善を阻んでいる。日本と同じ国民健康保険の実行も、「共産主義的だ!」って批判されるらしい。治療費払えない貧乏人は、自由のために死ねってことですか。
私は極端人間なので、「まあまあそういう極端な言い方をすると、こちらの顔も立ちませんから」的な笑顔の“ことなかれ主義”的曖昧ピープルにイライラすることが多いのだけれど、日本がアメリカ型の野獣みたいな格差社会に近付いている昨今、そういういかにも日本人的な人を絶滅させちゃいかんなと、真剣に思うのだ。(text / shiho atusmi)
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『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』
原題:Capitalism: A Love Story
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア
劇場情報:2009年12月5日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 梅田にて限定公開。2010年1月9日(土)より 全国拡大ロードショー
配給:ショウゲート
©2009 Paramount Vantage, a division of Paramount Pictures Corporation and
Overture Films, LLC
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