パリに旅行した時、お昼ごはんと一緒に水を飲み、食後にコーヒーを飲んで会計したら、水の値段がコーヒーの倍でびっくりした。ガス入りとかじゃなく普通のボトルウォーター、言っちゃなんだがタダの水。どんな店に入っても「おひやください」って言えば普通にお水が出てくる日本に暮らしていると、なんかすごい違和感である。日本でお水が売られるようになったのはどうやら80年代前半で、私なんかが大学生の頃は、ボトルウォーターを飲むこと自体が「なーんか外人っぽくてカッコいい」な雰囲気小物だったのだけれど、「うええ、エビアンまずいい」なんて思っていた当時の私は、カッコつけた同級生がオーバカナルあたりでコーヒーくらいの値段のペリエを頼む気持ちがさっぱり理解できなかった。実は今もあんまり理解できない。そもそもコーヒーだって紅茶だって原料は水で、そこに豆とか茶葉とか作る手間の人件費とか加えてあの値段なのに、水がそれと同じくらいの値段ってどういう意味なのかしらん?
『ブルーゴールド 狙われた水の真実』はその違和感に答えをくれるドキュメンタリーなのだけれど、これを見て私が最初に思い出したのは意外にも『007 慰めの報酬』だ。敵はボリビアの天然資源の利権を狙う悪の組織なのだが、ラストでわかるその資源の正体はなんと「水」。『ブルーゴールド』は、私を含めて何も知らない日本人が「…ふうん」くらいにしか思えなかったこのオチを解説してくれる作品と言っていい。人々と軍が衝突する“水戦争”が起きたのは2000年、南米ボリビアのコチャバンバ市。政府から水道事業を請け負ったアメリカの民間業者ベクテル社が水道料金をどんどん値上げし、暴動がおこったのだ。その料金は月収の3分の1にまでなり、滞納すれば水道は即停止、さらに古来の雨水貯留法でしのごうとした人々に「水資源は当社のもの」と料金を請求……。ちょっと絵にかいたような悪徳企業なのだが、これがあのブッシュの会社だっていうんだから、ちょっと冗談みたいである。森林が減り淡水資源の自然循環の機能が失われつつある中、時代は石油の奪い買いから水の奪い合いへと移行している。石油は高ければ使わないとか、他で代替することもできるけれど、何しろ人間は水がないと死んじゃうわけで「高いからいらない」とはいえない。金の匂いに鼻の利く多国籍企業はそこに目をつけ、各国の水道事業を請け負い料金を釣り上げる。ちなみに世に出回っているボトルウォーターの多くも、その関連会社が仕切っている。彼らがボロ儲けしているのは、本来水が誰のものでもなく、タダに近いものだからだ。

「ボトルウォーターがカッコイイ」的思考回路は、つまりは大企業の儲けを出すために時間をかけて作られた刷り込みだったんだなあ。私は今後は、水は買わないと決意してしまった。実はアメリカのボトルウォーターの30%が水道水だっだってことをCNNが報道し、ペプシのボトルウォーター「アクアフィナ」がそれを認めて表示を切り替えたりもしている。ちょっと前に石原慎太郎が「東京の水道水はうまい!」と主張して“東京水”っていうのを売り出して、まったく困ったおっさんだよ、水道水なんて買うかよと思っていたけれど、あれはある意味アンチテーゼとして正しかったのだ。なんか民主党が心配になってきた。様々な民営化を叫ぶ中、こういう悪徳企業に水道事業を委託しちゃったりしないだろうか。悪の帝国は、そういうタイミングにつけ入るのが、めっぽう上手いのだから。(text/shiho atsumi)
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『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』
原題:BLUE GOLD: WORLD WATER WARS
監督:サム・ボッゾ
出演:モード・バーロウ、トニー・クラーク、ヴァンダナ・シヴァ、ミハル・クラフチーク、ウェノナ・ホータ
劇場情報:2010年1月16日より、渋谷アップリンク、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
配給:アップリンク
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