
大きなキャンバスを区切った矩形と色彩のみで、宗教的とまで言われる深い内省を表現するアメリカ抽象表現主義の画家、マーク・ロスコ。ロスコの作品のみで構成された空間は世界にたった4カ所と言われているが、そのひとつが、川村記念美術館にある。〈シーグラム壁画〉シリーズのうち7点を展示するロスコ・ルームだ。
(写真上)ロスコ・ルーム 撮影:渡邉修
作品数に合わせた“変形七角形”の平面形状を持ち、横幅1.5~4.5メートルに及ぶ画が七つの壁に掲げられ、鑑賞空間を囲む。さらに「鑑賞者と絵画の親密な関係」を実現するため、様々な工夫が凝らされている。絶妙な位置に配置された観賞用のソファ。床や壁には人間の感情に直に訴えかけるような風合いのある材料が使用され、さらにロスコ独特の絵肌を最小限の照度で浮き上がらせる照明効果が用いられた。
圧力とも引力ともいえる、壁画が放つ独特の力を感じさせるロスコ・ルーム。作品と空間が一体となり、そして観る者自身をも深い一体感へと導いてゆく。観る者に時間を忘れさせ、身体の力を緩ませる、そして、絡んだ心の糸を解きほぐすような不思議な体験が待ち受けている。
(写真上)ニューマン・ルーム 撮影:渡邉修
「ニューマン・ルーム」では、高さ2.8m、横幅6.1mという、バーネット・ニューマンが制作した絵画の中で最大のサイズを誇る《アンナの光》が展示されている。一色に塗られた大画面に、「ジップ」と呼ばれる垂直の線を配した色面としての絵画をつくるニューマンもまた、マーク・ロスコと共に抽象表現主義を代表する画家だ。
色の強度や輝度の点でも、これに勝る作品は他にないと言われるほど充実した色で満たされている《アンナの光》。画から7.2mほど離れたところに設定された観賞用のソファから眺めると、最初は「近すぎる」感覚を味わうものの、絵のほうに歩み進むにつれて、次第に赤い世界が視界を覆い始める。そこに、ニューマンの意図が示されてくるのだ。
ニューマン・ルームの左右の壁面は、円弧を描く透明のガラス窓。紗のスクリーンをかけたガラス窓から屋外の自然が透けて見え、赤い大画面の拡がりと屋外の自然の拡がりが互いに呼応する。この意外性に溢れるアプローチが、「崇高」という名の気持ちの良い、爽やかな感覚をもたらしてくれる。
約8カ月の休館期間を経て、今年の3月リニューアル・オープンした川村記念美術館。ほかの展示空間には、長く川村記念美術館の顔として親しまれてきたレンブラントによる肖像画 《広つば帽を被った男》から、モネを始めとする印象派、近代の日本画、シュールレアリスム絵画、フランク・ステラを中心とした戦後アメリカの大型作品など約120点が並ぶ。
(写真左)クロード・モネ 《睡蓮》 1907年 油彩、カンヴァス 92.5 x 73.5cm
(写真右)「201展示室」に展示中のフランク・ステラの大型作品 撮影:渡邉修
現在、展示面積が従来の1.5倍に拡張された新空間ではリニューアル後初めて全館を使いきってコレクションを披露する「絵画の森」展を開催中。本展では、さらに今年の新収蔵品である鏑木清方の掛け軸2点を初公開する(8月3日まで)。ロスコ・ルームは、9月から来年6月にかけて開催されるロスコ展への出品のため9月より閉鎖するので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろう。無意識の心の疲れを取り除いてくれる、あなたにとって忘れられないカタルシス体験が待っているかもしれない。
(写真左)レンブラント・ファン・レイン 《広つば帽を被った男》 1635年 油彩、カンヴァス 76.0 x 63.5cm(楕円形)
「絵画の森」レンブラント、印象派、現代の巨匠たち
会 期: 2008年6月3日(火)~2008年8月31日(日)
定休日: 月曜日(ただし7月21日は開館)、7月22日(火)
時 間:9:30-17:00 (入館は16:30まで)
会 場:川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631番地
Tel:0120-498-130(または 043-498-2131)
料 金:一般¥1,000、学生・65歳以上(*)¥800、
小学生・中学生・高校生¥500
*「学生」=大学・専門学校・予備校の生徒を指します。
(写真右)川村記念美術館外観
DIC株式会社総合研究所が所有する広大な庭園に並んで1990年に開館。ヨーロッパの古城を思わせる建物は、故・海老原一郎氏の設計である。









