
社会人になったばかりの新人と食事をしたりすると、いつのまにか自分の経験値が高くなっていることに気づく。異性とのディナーも、クライアントとの接待も、いつの頃からかこなれてきたようだ。でも、経験を重ねたからこそ、緊張と弛緩の間を行き来するような、ワクワクする食のシーンを望まずにはいられない。
(写真上)おしのぎ:茶会ではご飯からいただくのが決まり。朱色の漆器の椀が美しい。この日は7分付き米、あわ麩の白みそ仕立て、向付けは春らしく筍と飯蛸を炊いたもの
「今は誰だってレストランに行ける時代だけれど、本来、お客様に“行ってもいい体勢”というのがあるはずなんです」
こう語るのは、『山田チカラ』のオーナーシェフ・山田チカラさん。自らの名をそのまま店名にする潔さを持つ彼は、数年前に妻でソムリエでもある祐嘉さんに誘われた茶会で、初めて「茶の湯」の世界に触れる。
「茶の湯の世界では迎える側、迎えられる側の両方に暗黙の決まりごとがある。客と亭主との関係性に感銘を受けました」。
その決まりごとの中にミニマリズムに通ずる美しさを感じ、自らの店に取り入れたのだ。
前菜:帆立のタルタル、別名「アントニオ・ガウディ」
パプリカ、ズッキーニなど細かく刻んだ野菜の色鮮やかさが見事。ガウディの建築モザイクのようということで命名
まずは食事を楽しむために靴を脱いでカウンター席へ。壁は白、テーブルは黒というシンプルな空間に身を置くと「茶会に招かれるのってこんな感覚?」というような、背筋をピンと伸ばしたくなる心地よい緊張感を覚える。一方で隣り合わせた者同士、自然と会話が弾むような距離感もいい感じだ。
食事は茶懐石の形式に則り「飯・汁・向付け」のおしのぎに始まり、その後は和洋を超えた料理が10品ほど登場。ここは、スペインの三ツ星レストラン「El Bulli(エル・ブリ)」のフェラン・アドリア氏に師事、赤坂の「旬香亭グリル デ・メルカド」の料理長を務めたシェフの腕を存分に堪能したい。
食後は店内に設えられた茶室へ。にじり口に頭をかがめて入るところから本格的で、女将がお茶を点ててくれるという嬉しいもてなしが待っている。
肉料理:アグー豚のロースト、アスパラ添え
こうした亭主側のもてなしに対し、客である私たちはどんな“体勢”でもてなされるべきか。冒頭の言葉を受け、山田氏は言う。 「具体的に言うと、うちにはメニューがないんです。席に着いていきなり『メニューください』と言われてしまうのが一番困ってしまいますね。だから事前に好みを聞かせてもらえれば用意しておくこともできますので。茶道の心得がある人も、そうでない人も、もしわからないことがあったら質問してくれればいい。その辺を積極的に楽しめるかどうか。新しいモノを何でも受け入れる柔軟な体勢で来てもらえれば、料理以外にも楽しめることが多いはずです」
お茶の作法を軽くおさらいしてから出かけるのもよいかもしれない。“行ってもいい体勢”を整えつつ好奇心いっぱいで。経験を重ねてきたからこそ、積極的に新しい発見を楽しめる。そんな大人のための隠れ家なのだ。
(text/yuko Kotani、photo/kawakami shu remy)
山田チカラ www.yamadachikara.com
住所は非公開とさせていただきます。
ぜひ探してみてください。(店主より)
Tel:03-5942-5817
営業時間:18:00~24:00(LO)2:00(CLOSE)
定休日:不定休
サービス料:10%
カウンター8席、茶室1室。貸切は6人以上で応相談。
食事はお任せコース\12000。予約時に素材や調理法の好みを伝えるとよい。
ワイン、シャンパン、日本酒などお酒も充実。









