この夏、全国的な日照不足や大雨の影響により、国内では農作物への被害が懸念されている。思い出すのは1993年の冷夏の際に起きた米不足騒動である。この頃から徐々に日本の食料自給率の低さが問題視されるようになった。いまや“食育”という言葉が生まれ、農業が世界的にもブームになるなど、食のトレンドは明らかに大きな曲がり角に差し掛かっている。そんな中、時代の波を捉えて進化・革新し続けているレストランのひとつが、開業5周年を迎えた『ベージュ アラン・デュカス 東京』だ。世界的料理人アラン・デュカス氏がプロデュースするこのラグジュアリーフレンチレストランで提案される、真の“美食”のあり方とは一体どんなものだろうか。
(写真上)フランスの秋の味覚、セップ茸と合わせた一皿。肉の脂分を活かした味付けで、肉の間に埋め込んだ砕いた黒トリュフの香りが濃厚。『梅山豚とセップ茸の黒トリュフ』

「人々の活動が環境にもたらす影響と、減少しつつある資源に危機感を抱きながら、持続可能な発展への答えを求めて考えてみるとき、私はいつも自分の仕事の真の原点、つまり食材とその食材を作り出す人に帰ることが大切だと考えています」
これは、アラン・デュカス氏の言葉だ。デュカスのレストランはパリ、モナコ、ニューヨーク、そして東京など世界各地にあるが、その土地独特の食材や文化を常に重要視している。「料理は60%は食材、35%は料理人の腕、残りは料理人のセンス」というデュカスのフィロソフィーは『ベージュ アラン・デュカス 東京』のエグゼクティブシェフ、ジェローム・ラクレソニエールにも受け継がれている。日本各地の生産者と日々パートナーシップを結び、季節ごと、地方ごとに最良の食材を求め、新しい試みに意欲的に取り組んでいる。
(写真右)梅山豚は中国を原産とする純粋種。強烈なサシの入った脂身の多い豚肉だが、コレステロールを下げる不飽和脂肪酸が多く、秋以降に出荷される豚には特に上質な脂肪分がのっており美味。
「日本の風土の恵みと、生産者が情熱を傾けた本物の食材を見つけ出し、革新的な一皿を提案する」というコンセプトで定期的に行われているのが、Le Produit du Moment「素晴らしき日本食材の探究」と題したイベント。9月からは茨城県・塚原牧場の梅山豚(メイシャントン)が登場する。
中国原産のこの豚は国内で飼育されているのが100頭前後という大変貴重なもの。食材を紹介した農産物流通コーディネーターの山本謙治氏はその魅力をこう語る。
「豚肉の味は、品種、育て方、飼料の3つで決まるのですが、梅山豚はそれが3拍子そろっている。出荷前1カ月は森林放牧され、ドングリなど木の実を食べて飼育されるのですが、それはスペインのイベリコ豚と同じです。飼料はパスタ粉砕物や乾燥麦茶カス、モナカの皮など食品由来のリサイクル原料を用いた自家配合飼料100%のものなのです。」
まさに真の国産、真のエコロジーを体現している“美しい”豚肉なのだ。
(写真左)エグゼクティブシェフのジェロール・ラクレソニエール氏(右)と、流通コーディネーターの山本謙治氏(左)。山本さんは前回のLe Produit du Momentでプレミアム短牛の提供にも携わっており、シェフからの信頼も厚い。
フランスにはない、日本ならではの豚肉を一体どう料理するのか。期待が高まるなか、ワクワクしながら待っていると、黒トリュフの香りをまとわせた梅山豚がお目見えした。シェフが素材への敬意を込めて、素材の良さを活かしたシンプルな調理法が豪快かつ見事な仕上がりだ。「食材が素晴らしいので、特別なことはなにもしない」というが、火入れ加減は絶妙。ここはシェフの腕とセンスを存分に堪能したい。
梅山豚を食べられるのは1業種1店舗で、フレンチでは『ベージュ アラン・デュカス 東京』だけ。こうした希少価値も、もちろん人々を引きつけるが、それ以上に「美味しい料理の定義は?」「本物の食材とは?」「環境に優しい食材とは?」そこに答えてくれる料理に出会えることが真の“美食”の喜びだ。『ベージュ アラン・デュカス 東京』の一皿一皿は、グルメな大人のための“食育”の役割を担っているといっても過言ではない。
(text/yuko kotani、photo/chikahito nagai)
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ベージュ アラン・デュカス 東京
東京都中央区銀座3−5−3 シャネル銀座ビルディング10階
Tel:03-5159-5500
営業時間:ランチ 11:30-16:30(最終入店14:00 LO14:30) ディナー 18:00-23:30(最終入店21:00 LO21:30)
定休日:月曜、夏季・年末年始
席数:ダイニング80席(全席禁煙)
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