新緑が目にまぶしい有栖川公園にほど近い広尾商店街の一角に、2009年10月にオープンしたフランス料理店「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」。「ありのままの」という意味を持つ「アニュ」を店名に冠したのは、「下ごしらえに手間暇かけつつも、その様子を感じさせない、ありのままの素材を表現する」という想いから。「ルトゥルヴェ・ヴー」は、フランス語で「再びここで逢いましょう」。その名の通り、一度足を運んだら再訪を繰り返してしまうらしい話題の店を訪れてみた。

(写真上)8,000円ディナーコースのメイン「フランス ドンブ産 ウズラ・インペリアルのロティ 甲殻類のソース」
料理はいいが、サービスがいまいちという店が多いなか、この店では28席のそれほど大きくないダイニングスペースを5名のサーバーが守り、そのうち4名はソムリエの資格をもっている。実際のところ、若いながらもキャリアのある彼らのサービスは評価が非常に高く、客の関係性、オーダーによって「どんな時間を過ごしにきたか」を即座に把握し、客の望みをパーフェクトに近い形で実現する。かくゆう私も初めの食事の際、いつも以上にリラックスしてコース料理とワインを味わったうえついついチーズまでオーダーし、4時間もの時間を楽しく過ごした客のひとりである。
(写真上)左:重厚な硯に盛りつけられた「山口県萩産 瀬つき鯵のサラダ よもぎのソース」 右:透明のスープにオリーブオイルが大きなドット柄を描く「空豆のコンソメ」。かわいらしく添えられた空豆の、爽やかなミントとエストラゴンの風味が鼻孔をくすぐる
オープンして間もない頃から「予約の取りにくい名店」として知られるようになったアニュの料理は、器のプレゼンテーションが凝っていたり、料理名からは想像がつかない奇抜なアイデアの料理が多い。しかしながら、どれもがいったん口にするとほっとできる、素直に美味しい味わいに満ち溢れている。そんな、驚きと安らぎを与えてくれる料理を作り出すのは、代官山のフレンチ「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」出身の下野昌平シェフ。「気をつけているのはやりすぎないこと」と話す下野シェフだが、創作意欲にあふれる彼が意外な素材の組み合わせやユニークな調理法を取り入れた新しいメニューをひらめくのは日常茶飯事。ひらめきをキッチンへ持ち込んで試作が完成すると、スタッフ全員で試食する。いざ生まれた新作料理であっても、スタッフやお客の反応が今ひとつだと却下されることも少なくない。下野シェフの“やりすぎない”料理は、徹底した客観性によって担保されているのだ。 >>2へ
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