うつ病・ストレス 広がるメンタルヘルスへの危惧
うつ病・ストレス 広がるメンタルヘルスへの危惧

世界保健機関(WHO)によるとメンタル・ヘルスや行動に障害を持つ世界人口はおよそ4億5,000万人ほど、全人口の約7%だと推定している。おそらく軽度のうつ病、ストレスに起因した疲労などを含めればもっといるのではないだろうか。

いつの時代からか、「ストレス」「うつ病」「自殺」「カウンセリング」などという語句を日常的にニュースなどで見たり、聞いたりするようになった。また「戦後のあのころは貧しかったけれども心は豊かだった」と懐かしむように、今は環境的には恵まれているはずなのにどこか物憂げに話す老齢の人々。開発途上国にボランティアで訪れて「貧しい国ではあったけれども子どもたちの目が生き生きとしていた」と感じる大人たち。日本では世代・環境・年齢など関係無くストレスを感じ、精神的な圧迫に直面することが日常的になってきているようだ。

日本国政府の対策が行き届いていないのは言及するまでも無い。厚生労働省のホームページを開いてみても、メンタル・ヘルス対策のあり方などは「過労」による職場に限定された問題のみ取り上げている。しかし、現実にはストレスなどから「うつ病」になったり「自殺」もしくは「自殺未遂」を繰り返しているのは老人だったり、子どもだったり、主婦だったり、サラリーマンだったり、とさまざまである。調べてみると、メンタル・ヘルスの政策に進んでいそうなアメリカでさえも、政府として対策をとってきたのはここ10年近くのことだという。

アメリカ政府のメンタル・ヘルスの焦点は子どもと青年である。以前にもこのコラムでも取り上げたような若者による衝撃的な大量殺戮事件の裏には、メンタ・ルヘルスに問題があったことなどが関わっていると考えている。学校なども心理カウンセラーを置くなどの対策を積極的に行っているという。イギリスで心理士をしている人も、引きこもり、いじめ、不登校などはイギリスでもあることで、日本特有の現象ではないと指摘している。心理的な問題が背景にあると考えられた場合には学校から心理専門家を紹介されることもあるそうだ。そのイギリスの政府も今年に入り、メンタルヘルスの法整備をすすめているほか、2004年には小委員会を設立して、医学専攻の学生が将来的にメンタルヘルスを専門とする医者になる数を増やしていくための対策を講じている。

しかしながら、メンタル・ヘルスが損なわれている心配に見舞われているのは先進国ばかりではないようだ。国際協力機構の客員研究員喜多悦子氏の論文によると、近年の地域紛争により、それに巻き込まれた人々のメンタルヘルスが損なわれているという。紛争地域にある家族や個人は生命の喪失と襲撃への恐怖や、避難生活における将来への失望感に直面しているだけではなく、ついこの間まで隣人であった人々に不信感を抱かなければならないという状況下にある。武器や暴力に対する「なれ」などによって人々は“identity(こころのよりどころ)”を失い、急激にメンタル・ヘルスが損なわれていっていると指摘している。ただ、カンボジアにおいてはその解決策の一つとして、カンボジア固有の文化、spirit(精神)を取り戻すことが真の癒しになるという考えをもとに、古来の伝統文化の尊重などのプログラムをメンタル・ヘルスの概念に取り入れて地域復興を行っているという。

この論文は一つのヒントを投げかけているのではないだろうか。先進国では日常的な武器の暴力に対する不安は少なくても、家庭内暴力、言葉による暴力、など違った形で暴力が存在し続けている。

また情報化社会では溢れる情報に埋もれてしまって、個性が失われていく。いま元気な人も、ちょっとしたストレスから疲労感に見舞われ、漠然とした不安感に襲われ、何かに落ち込んでしまうときがあるかもしれない。英語で元気であることを“high spirits”と表現し、“spirit(精神)”という言葉を使うときがある。精神が高まってこそ元気なのであるから、今から自分にとっての“identity(こころのよりどころ)”が何であるのか見つめ直して、メンタル・ヘルスの維持に努めてみるべきではないだろうか。

丹羽 康子/ Yasuko Niwa

英国オクスフォード大学で国際関係学を専攻し修士号取得。政治だけでなく金融知識も身に付けたいと帰国後、外資系証券会社に勤務する。日経CNBCにて経済キャスターを経たあと、現在は茶道家としての活動をすすめる側ら、金融教育やキャリア教育などの講演でも活躍中。

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