musicベートーベン2005
小、中学生の音楽の時間、壁に貼ってある無気味な音楽家の肖像画を見ながら様々なクラッシックの名曲を聴かされたのを覚えている。
バッハ、ハイドン、モーツアルト、ベートーベン、チャイコフスキー。当時この音楽家たちの偉業をどこまで理解できたのだろうか。
理解とまではいかないまでも、あの悪い夢に出て来そうな肖像画とヘアースタイルとが確実に僕の記憶に刻まれている。

中でもベートーベンは特に印象深かった。
「第九」とか「運命」なんかの激しいものより「エリーゼのために」の美しくて繊細で切ないメロディーが子供だった僕の琴線にも触れたのだ。

しかし成長し大人になって多少クラッシックを聴く事はあっても特にベートーベンに興味を持つ事は一度もなかった。
無意識のうちに何度となく耳に入り、メロディーさえ口ずさむ事ができる程のこの曲に、ある作品に出会うまではまったくの無反応であった。

ガス・ヴァン・サント監督の映画『 エレファント 』。
この映画は1999年アメリカのコロラド州の高校で実際に起きた有名なコロンバイン高校銃乱射事件をモチーフとした作品である。
事件のショッキングさとは裏腹に冷静に淡々と進んで行く構成は素晴らしく、カンヌで監督賞を受賞している。

映画中盤に乱射事件の犯人である高校生が自分の部屋のピアノでベートーベンの「エリーゼのために」を弾くシーンがある。その聴き慣れた当たり前のメロディーが限り無く美しく悲しく本当に新鮮に響いた。
その部屋に共犯のもう一人の少年がいて銃で人間を撃ち殺すシューティング・ゲームをやっている。そのゲーム画面がUPで映され「エリーゼのために」と重なった時、鳥肌が立った。
なんとも表現できないくらい複雑に無気味に美しかった。
エンド・ロールでもこの曲が流れる。
この事件の空しさや残酷さと少年達の心の闇をこの一曲がすべて表現している気がしてならなかった。

映画を観て以来頭の中でずっとこの「エリーゼのために」のメロディーがリピートされていた。
今さら聴いてもと思う様な曲がこんなに頭を支配するとは思わなかった。

数日後、CDショップのクラッシックのコーナーで「エリーゼのために」が収録されている"BEETHOVEN FOR RELAXATION"を買った。あの音楽の時間以来、初めてまともにベートーベンに興味を持ったのだった。
Ludwig van Beethoven
『 BEETHOVEN FOR RELAXATION 』
NEVIGATOR's PROFILE
下田法晴/ Michiharu Shimoda
1967 年生まれ。 SILENT POETS /サイレント・ポエツ、グラフィック・デザイナー
1991 年に美大で出会ったメンバーと SILENT POETS を結成。 今までに通算 6 枚のオリジナル・アルバムと 7 枚のリミックス・アルバムなどをリリースし、海外からも高い評価を受ける。現在は DJ Yellow を共同プロデューサーに迎えた次回作を制作中。
その他、 ISSEY MIYAKE のパリ・コレクションの音楽やUA のプロデュースや平井堅のリミックス、またグラフィック・デザイナーとしても活躍している。

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