都会で駆け出しの医師として働き独り暮らしの日々を送っていた頃。慌しい日々の中、多く経験する人の「死」や「病」を取り巻く人々の喜怒哀楽に対し、じっくり考える時間も持てず、思考の消化不良状態の連続だった。しかし考えども、答えは容易に出るものでもなく、心中にはたくさんの「人生への問いかけ」のようなものが残った。
同じ頃、たまの休日に、人恋しくて出かけた街中で、たくさんの人の中にあるほどさらに強まる孤独感。たとえ恋人といっしょにいても、友達と語らっていても、心の奥底にある本当のさみしさをごまかすことはできなかった。このさみしさは一体どこからやってくるのか。自分ではどうすることもできず立ちつくしているような日々。
そんな中で、ニューヨークという街の孤独、混沌をそのまま表出したようなローラ・ニーロの声を部屋で独り聴くことで、やっと孤独を昇華させることができるような気がしていた。そして、眠れぬ夜には真っ白な天井を見つめながら彼女の声を聴き、意識は都会の片隅の小さい部屋の中から抜け出し、真っ暗で大きな満天の空の彼方まで届いていくようだった。
そんな彼女のアルバムの中で、その魅力を最大限に聴くことができるのは、やはり弾き語りだろう。このアルバム収録の1994年のライブが、彼女にとって生前最後のものとなり、後に49歳の若さでこの世を去った。
人は「死」と同時に身体はこの世から無くなるが、「魂」だけは生き続けるということがあり得る。今日も都会の片隅の私の小さな部屋の中で、生き生きとした彼女の声が響いている。そして相変わらず「人生への問いかけ」は続いている。
おそらく、私という人間の身体が無くなるその日まで。(text/ アン・サリー)
音楽が染み渡る街“ニューオーリンズ”で、ナチュラルな生活から培われたたおやかな歌声。親愛なるミュージシャンたちとのセッションから生まれた初のセルフ・プロデュース・アルバム。彼女の瑞々しい感性から伝わる、ニューオーリンズの新しい一面。
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アン・サリー
幼少時からピアノを習い音楽に親しむ。10代の頃、ブラックミュージックと出会い、その魂(ソウル)への衝撃から自ら歌い始める。大学時代よりバンドで演奏し、歌に独自の表現を折り込むことの面白さにのめり込んで行く。卒業後も医療関係の仕事に従事しながら、気心が知れた仲間達とともにライヴを重ねる。2001年『Voyage』でアルバム・デビュー。
2003年には『Day Dream』『Moon Dance』で日本語の曲も取り上げたりと、既出の良歌を独自に消化し、新しい解釈で次々と世に送り出す。2005年には医学研究のため暮らしたニューオーリンズ収録の『Brand-New Orleans』で、地元ミュージシャンと国境やジャズというジャンルの枠を超えた、心温まるセッションの模様を収録し話題を呼んだ。
「歌手」、「医師」、「一児の母」の3つの顔を持つそのユニークなライフスタイルは多くの共感を得ている。