幼少の頃から、いつも耳を傾けていたのは、イヴ・モンタンやエディット・ピアフのシャンソン・フランセーズだった。
人生の喜怒哀楽のシーンの中で、特に “哀” のシーンにスポットを当てた、フランス・パリの下町でこよなく愛された国民の唄。現実の苦しみから目を離さず、自爆するのを覚悟でむしろそれに向かっていき、ドボンと潔く悲しみの泉に身を置くシャンソンの主人公。聴いていて清々しいのは、嵐のような感情を体験した男も女も、恋に愛に破れた者は颯爽と “C’est la vie!(これが人生さ)” と言いながら身を翻して風の中に消えて行くことだ。
そんな私のシャンソンへの印象が変わったのは、フランスの国民的歌手のアンリ・サルヴァドールの声を聴いた時だった。声にあたたかい陽が差している、というか、彼の音楽の向こうには、陽気なサンバの鼓動が聞こえるような気がした。
調べてみたら、彼はフランス領ギアナの出身で、ギアナは南米に残された唯一の植民地である。フランス革命直後から、苛酷な流刑地として知られるこの地の歴史は、明らかにアンリの音楽性に足跡を残している、と思った。悲しみに自己陶酔するほど、人生には余裕も暇もなく、けれど長い労働と労働の合間にフッと仲間と大笑いをする感覚、そのつかの間の遊びが、彼の楽曲にはあった。人生の余分な部分、無駄だと思われ捨てられそうな、人間の日々の感情。これらに着目したアンリの音楽は全て、寛容で、朗らかで、しかしピリッと辛い。
アンリが2003年に発表した『Ma chère et tendre(愛しい君との愛しい時間)』のアルバムが、私は一番好きだ。タイトルトラックは若手ソングライター、ケレン・アン作の亡き人を偲ぶ歌。主人公の心のバッグには、涙はない、あるのは亡き彼女が残した灰だけ、彼の後悔や苦しみは全部灰の中に埋めてしまった。

“さあ、もう何も言わないで、君を待つことにしよう、愛しくて優しい君……” と切なく優しい色気のある声、しかし人生を悟りきったような抑制の効いた深い声で、語りかけてくる。どんな女性も、この亡き女性に嫉妬してしまうぐらい、一声聴けば恋におちてしまうような、媚薬の入った魔法の声と言っても大げさではないと思う。
頑張り続けている全ての女性へ、ふと力を抜いて、自分を愛してあげようと余分な時間を持った時、ぜひ聴いてほしい珠玉の作品である。
(text / Sasha)
Henri Salvador『Ma chère et tendre』
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M’sのファーストアルバム『Et Voilà』7月発売
Sasha&Mogyから生み出されるサウンドは、シンプルで心に響く歌詞と、アコースティックなサウンドで、聴く人に柔らかい時間を届ける。透明感溢れるSashaの声に、Mogyの包み込むような温かい声と、優しい色気のあるギターが溶けあって、繊細で広がりのあるコーラスワークが生まれる。ガン闘病中の父、鳥越俊太郎氏を想って書き下ろした「舞台」を含む、全曲オリジナル。ケルト音楽やブルース、フォークミュージックなど多様な音楽性に仕上がっている。
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Sasha(鳥越さやか)
M’s ヴォーカル
女優、シャンソン歌手、ラジオDJとして活動してきた鳥越さやかが、ギタリストでシンガーソングライターのMogyとの運命的な出会いで生まれたデュオ、 M’s。メインヴォーカルが二人という異色のコンビで、絶妙なコーラスワークがM’sサウンドの醍醐味。ライヴでは、Blues、Jazz、Pops、 Bossa Nova、Chanson、Folkなど、ジャンルを越えて胸を打つ音楽をM’sの解釈で演奏していて、音楽の素晴らしさを感じさせてくれる。
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