こころの準備はできている? 裁判員制度
こころの準備はできている? 裁判員制度

2009年5月、日本国内において裁判員制度が開始される。日本弁護士連合会によると市民が刑事裁判に参加する制度は、世界80以上の国や地域であるそうだ。先進諸国では、アメリカやイギリスなどが陪審制度、イタリア、ドイツやフランスが参審制度といった司法形態を採用している。日本の裁判員制度は刑事事件の有罪、無罪だけでなく、刑罰まで裁判官と協議をして決める参審制に近い制度で、市民の意見が判決に反映されるというメリットが狙いのようだ。

しかし制度の導入にあたり混乱が予想される。平成19年2月に内閣府が発表した裁判員制度に関する世論調査では、調査対象となった44.5%の人が「あまり参加したくないが、義務であるなら参加せざるをえない」と答え、33.6%の人が「義務であっても参加したくない」と、消極的な回答のほうが多い。そのため裁判官への負担も大きくなりそうだ。裁判制度に参加する意欲も、関心度も異なった民間人が多数同席するのである。まず裁判員としての責務を全うするための必要最低限の知識と判断力を授けなければならないことも大変そうだ。そもそも裁判員制度は日本の風潮にあった制度なのだろうか?

日本人は概して自己主張をするのが苦手な国民のようである。人との間の摩擦を嫌う「和」を尊しとする日本人の気質が災いする。ましてやその意見が少数派ともなると、ますます声は小さくなる。留学時代、よく眼にした授業風景であったが、討論の場における日本人学生と諸外国の学生との違いは一目瞭然であった。日本の学生は討論中、静かに悶々と考えている様子で、自ずから「私はこう思う」という自己主張や人前での発言が苦手な人が多いようだった。上に述べた内閣府の意識調査の中でも、4割の人たちが「専門家である裁判官の前で自分の意見を発表することができるか自信がない」と答えている。

そんな日本の学生と対局にあったのがアメリカから来た学生たちであった。質問や発言内容の「質」はともかく、授業中に一度は口を挟まずにはすまない様子であった。後から知ったが、アメリカの教育機関では意欲的な授業参加が促され、発言をすることが成績表に反映されるらしい。子どものころから人前で積極的に発言をすることを叩き込まれているのである。

そのアメリカは陪審員制度を採用している。積極的な討論にも臆すことのない国民性をもっても陪審員に関して問題点がないわけではないようだ。それを的確につく有名なハリウッド映画『Twelve Angry Men(十二人の怒れる男)』がある。陪審員たちの個人的な感情や偏見などで意見が変化していく模様を描いているミステリー映画であるが、同時に冤罪や審理の的確性に対する疑問を多く投げかける。

日本の裁判員は有罪、無罪の判断だけでなく、量刑の判断も求められ、責任はより重大だ。刑事三番に参加する不安要因として「自分たちの判断で被告人の運命が決まるため責任を重く感じる」との回答が64.5%占めていた。新しく開始する司法制度まで1年をきっているが、国民の意識はまだ躊躇多く、こころの準備は不足しているようである。

映画史に残り名作であるシドニー・ルメッと監督の『十二人の怒れる男』を、ロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフが現代ロシア版にリメイクした話題作。2009年5月21日より裁判員制度を導入する日本人の私たち必見の作品となっている。

12人の怒れる男
監督・出演:ニキータ・ミハルコフ 
出演:セルゲイ・マコヴェッツキイ、アレクセイ・ペトレンコ、ヴィクトル・ヴェルジビツキイ
公開情報:2008年8月23日、シャンテ シネほか全国ロードショー

丹羽 康子/ Yasuko Niwa

英国オクスフォード大学で国際関係学を専攻し修士号取得。政治だけではなく金融知識も身に付けたいと帰国後、外資系証券会社に勤務する。日経CNBCにて経済キャスターを経た後、現在は茶道家としての活動をすすめる側ら、金融教育やキャリア教育などの講演でも活躍中。

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