香りの魔力 広大で深遠なその世界を探る
第一章 映画に登場する香り
第二章 歴史における香り
第三章 私だけの香り
ultimate perfume in 『Perfume: The Story of a Murderer』
第一章 映画に登場する香り

意識するしないに関らず、私たちの生活の中に漂っている様々な“香り”。ある時は食欲をそそり、ある時は疲れた心を癒し、心や体に大きな影響を与える香りは、それを表現することができない映画の世界でも、実はさまざまな形で登場している。登場する香りを知れば、その作品の世界はさらに奥深く広がってゆくはずだ。

スクリーンの中に“香り”を漂わすことはできるのか?

天才的な嗅覚を持つ男が、すべての人間を魅了する“究極の香水”。それは誰もが愛さずにはいられない美少女たちのエキスからできたものだった――18世紀のパリを舞台に描かれた、美しくも奇想天外な物語「香水 ある人殺しの物語」は、’87年の出版以来、全世界で1500万部を売ったこの大ベストセラー小説。それが今日の今日まで映画化されなかった理由は、そのテーマである“匂い”の映像化が困難を極めたからである。

あらゆる技術が進歩したいま、スクリーンの上ではたいていのものは表現できる。視覚と聴覚のそのほかの感覚への影響力は大きいもので、梅干しが映れば唾液が出るし、不協和音が流れれば不安な気持ちになる。ところが嗅覚だけはそうはいかない。脳の中で処理する場所が嗅覚だけ違うせいなのか、視覚や聴覚と連動しないのだ。なのに嗅覚から他の感覚への影響は決して小さくはないのだ。鼻をつまんで食べると味がわからないし、鼻が詰まれば耳の聞こえが悪い。「スパイシー・フローラル系の香水をつけると痩せて見える」なんて研究報告も、ウソかホントか、あるのである。

あのキャラクターは、なぜあの香水をつけていたのか?

これだけ影響力のある感覚を、どうにか映画に盛り込めないか――そう考えた映画作家は少なからずいただろう。最近では、劇場でチョコレートの匂いを漂わせた『チャーリーとチョコレート工場』の試みもあったが、これだけ影響力の強い感覚に映画の間中訴えかけるのは、作品によっては命取りになってしまう。そこで編み出されたのが、有名銘柄の香水を登場させる手法である。

例えば『ワーキング・ガール』では、ニューヨークのバリバリのキャリアウーマンであるシガニー・ウィバーが、高価なランジェリーとゲランの“シャリマー”のみをまとってで恋人の到着を待つ。シトラス系からゴージャスなローズ系、そしてお菓子のようなバニラのラストノート……という香水。もしこの香りを知っていたら、この場面では大人の女性の様々な顔が見え隠れするに違いない。

対照的なのは『羊たちの沈黙』で新米FBI捜査官クラリスが、凶悪犯であるレクター博士に初めて会いに行った時につけていた、ニナ・リッチの“レール・デュ・タン”。誰にでも好かれるフローラル系のスタンダードは、ジョディ・フォスターの固い表情と共にまだ香水に凝る以前の女性像をあぶり出し、たとえFBIの身分証を見せても訓練生であることを博士に見抜かれてしまう。

“SHALIMAR” in 『Working Girl』 “L’air du Temps” in 『The Silence of the Lambs』
“Santa Maria Novella” in 『HANNIBAL』  “273” in 『PRETTY WOMAN』
映画の中でより際立つ、香水が持つ世界観

香りはもちろん、その裏にある世界観もまた、映画に深みを与えてくれる。クラリスの香水を言い当てたレクター博士で有名になったのは、まさにそんな香水店。『ハンニバル』で博士からクラリスに届いた封筒にわずかに残されていた香料から割り出された、フィレンツェにある世界最古の薬局、サンタマリア・ノヴェッラだ。カトリーヌ・ド・メディチか愛した800年も前の処方で香水“王妃の水”を作り続ける伝統的な店は、ヨーロッパ的な伝統の漂う優雅さを好むレクター博士が、いかにも好みそうな店だ。

一方、『プリティ・ウーマン』で登場するのは、ビバリーヒルズのフレッド・ヘイマン。リッチな紳士に出会い、みるみるうちにレディになってゆくかわいい娼婦を演じたジュリア・ロバーツが、嬉しいような恥かしいような表情でつける香水は、同店のビバリーヒルズ本店の番地から名付けられた“273”。その香水は、彼女が始めて体験するゴージャスな世界を象徴しているのだ。

スピルバーグ監督が考える、世界の終わりに残る香水は?

スティーブン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』でも、銘柄はないが香水が印象的に使われていた場面がある。暗殺に疲れ始めた主人公アブナーが、ホテルのバーで見知らぬ美女と同席する。彼女は自分の手首についた香水を彼の手首に移して誘惑、アブナーは後ろ髪引かれながらもなんとか1人で部屋に戻る。その夜、仲間の1人が何者かに暗殺されるのだが、彼の部屋にはアブナーの手首と同じ残り香が漂っているのだ。香水は文字通り映画の中の空気を、甘く危険なものに変えてしまう。

実は「香水 ある人殺しの物語」の映画化を熱望していたと言うスピルバーグ監督、嗅覚から感じるものに何か思い入れがあるのかもしれない。未来を舞台にした『A.I.』では、ロボットを息子として育てる母親がシャネルの“ココ”を愛用している。パーティーに向かう彼女が大切に使うその様子は、香水が未来社会ではめったに手に入らないことを思わせるのだが、そんなことは知らないロボットの息子は残りを全部使ってしまう。そんな使い方をしたら“ココ”のエキゾチックで刺激的な香りで辺りはむせ返ってしまうに違いないのだが――ここにさりげなくスピルバーグの考えが見え隠れする。視覚や聴覚を当たり前に持つロボットだが、嗅覚は持っていないのだ。

“COCO” in 『A.I.』
人間だけが味わうことのできる、本能的な楽しみ。

確かに特定の香りを判別する機械はあるが、あらゆる種類の香りを嗅ぎわけ、判別し、記憶やイメージとリンクさせる……となると、それは人間でしかありえないのかもしれない。ついに映画化された『パフューム ある人殺しの物語』は、そんな人間にしかできない芸当を映像で表現し成功している。香水を含ませたハンカチが香りを放ちながら舞う姿、鼻を刺す悪臭を作る何千何百のゴミや汚物、次々と異なる香りが漂っては消える町歩き……芳香から悪臭まで“ニオイのするもの”に特化した映像が洪水のように押し寄せる。そしてたどり着いた“究極の香水”については、どんな香りなのかたった一言の形容詞さえ語られないのが、逆にこの香りのイメージを倍増させる。

人間が持つ感覚の中で嗅覚のみが脳内で異なる回路を持ち、その回路は同時に本能を司っている。退化してはいるがフェロモンを嗅ぎ取る器官も、実は鼻の中に残っているらしい。嗅覚は人間の本能に最も近い感覚なのかもしれず、それを考えると“痩せて見える香水”や“美人に見える香水”、ひいては「誰もを魅了する美少女のエキス」からできた“究極の香水”も、あながち作り話と片付けられないかもしれない。フローラル、グリーン、エキゾチック、オリエンタル……芳しい香りを想像しながら観ることも、映画の楽しみを深めてくれるかもしれない。一説によれば記憶と最も強く結びついているのも嗅覚だというから、香水とともに楽しんだ1本は忘れられない映画になるに違いない。
(text/Shiho Atsumi)

映画『パヒューム ある人殺しの物語』

映画『パフューム ある人殺しの物語』 劇場招待券を25組50名様にプレゼント!

“史上最もセンセーショナルな結末”といわれ、スピルバーグやスコセッシらがその映画化権を熱望していた大ベストセラー小説「香水 ある人殺しの物語」が脚本に2年を費やし、遂に完全映画化。
圧倒的な映像美で観る者の五感を研ぎ澄ます衝撃作『パフューム ある人殺しの物語』の劇場招待券を25組50名様にプレゼントします。

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2007年3月3日よりサロンパスルーブル丸の内ほか、全国松竹・東急系にて公開
©2006 Constantin Film Produktion GmbH / VIP Medienfonds 4 GmbH & Co. KG / NEF Productions S.A. / Castelao Productions S.A

香水マリソル商品取扱店

東京都渋谷区道玄坂2-16-2
Tel:03‐3770-8142
営業時間:11:00~22:00(お問い合わせ受付は15:00~)
定休日:年中無休
日本未発売香水約10,000種類(世界一!)を含む膨大な品揃えを誇る、創業50年の香水専門店

Santa Maria Novella

東京都港区北青山2-13-5 青山サンクレストビル1F
Tel:03-3408-2008
営業時間:11:00~20:00
定休日:不定休
13世紀、フィレンツェのドミニコ会修道院を起源とするサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の日本店

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