香りの魔力 広大で深遠なその世界を探る
第一章 映画に登場する香り
第二章 歴史における香り
第三章 私だけの香り
第三章 私だけの香り

「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」。これら5つの感覚で、私たちは外界の状態を認識する。その中でも、もっとも捉えにくいのが“嗅覚”だろう。とはいえ視覚以上に、恋愛や人間関係に強く影響を及ぼすというから興味深いといえよう。

体臭は、個性を主張するために必要不可欠なもの

臭いや香りは目に見えない。しかし、人間はおよそ4万種類のにおいを感じられるという。バラの芳しい香り、食欲をそそる料理のにおい、はたまたゴミが発する悪臭……。好ましいもの、不快なもの、私たちの生活はおびただしい香りとにおいに取り巻かれているといっても過言ではないが、それはあまりにも当然過ぎて意識することも少ない。唯一、気にするにおいがあるとすれば、それは“体臭”ではないだろうか。「自分の体臭とはどんなものなのだろうか」「周囲に不快なにおいを撒き散らしていないか」と不安になったことがある人は少なくないはずだ。特に日本人は清潔好きな民族であるがゆえ、においに敏感で、その傾向が強いようだ。事実、クリニックへ体臭の相談に訪ねてくる人の大半は、単なる神経過敏であるという。においというものは、非常に感覚的で主観的なものであり、自分にとって不快なにおいを他人は必ずしも嫌うとは限らないのだ。

体臭とは個性のひとつで、指紋のようなもの。遺伝子が支配するため人種によっても異なる。また、生活文化や様式、仕事など置かれている社会的環境によっても異なり、体調の良し悪しやストレスなどによって一時的に変化することもある。そんな体臭が私たちに必要なのは、異性を惹きつけ、種を保存するためだといわれている。動物を例に挙げるとわかりやすいかもしれない。

体臭はどこからやってくるのか?
皮脂腺

機能:皮脂の分泌によって体の表面を守り、肌に潤いを与える。
体臭の原因:空気に触れて酸化することで、においを発生させる。

汗腺(エクリン腺)

機能:生まれたときからある汗腺で、皮ふ表面に広く分布している。ほとんどにおいのない汗を作り、体温や水分を調節する。
体臭の原因:汗そのものにはにおいはないが、成分に含まれるアンモニアや低級脂肪酸などが、垢や雑菌と混ざり、においを発生させる。

アポクリン腺

機能:わきの下、乳輪など限られた場所にある汗腺で、思春期になると発達する。性的アピールに必要な器官のひとつ。
体臭の原因:アポクリン腺の分泌物であるたんぱく質、糖、脂質などがバクテリアによって分解・酸化されて特有のにおいを発する。人種によってアポクリン腺の分布が異なるため、体臭が異なる。東洋人の体臭が薄いのは、アポクリン腺の数が少ないため。体臭の強さは、黒人、白人、日本人、中国人、朝鮮人の順。

においに導かれて、種を守る女性の神秘

異性を惹きつける役割を持つ体臭。その中でも、広く一般に知られるようになったのが“フェロモン”だろう。異性に性的な感情を起こさせる物質であるが、厳密には、体から分泌され、同種の他の固体に対して影響を及ぼす化学物質の総称のことである。こう言ってしまうとロマンに欠けてしまうが、特定の香り物質に異性を惹きつける効果があることはまぎれもない事実である。特に女性は、性的に興奮したときや月経時など、発情ホルモンであるエストロゲンが分泌されているときに、独特なにおいを発するといわれている。

また、最新の研究データでは、女性は交際相手を選ぶときに、“におい”つまり相手の体臭を「見た目」や収入や地位などの「社会的要因」よりも重要な手がかりとしていることが報告されている。“自分と異なる遺伝子を持つ男性のにおい”にワクワクとした好奇心を持ち、“父親の遺伝子に近い型を持つ男性のにおい”に落ち着くという。特に、“自分と異なる遺伝子を持つ男性のにおい”に惹かれる理由に驚かされる。女性は無意識に自分より遠い遺伝子を選ぶことで、本能的に種の多様化を維持しようとしているというのだ。

体臭は異性を魅了するための大切なものと知れば、うとましく思わず、慈しむことができるから、においに対する過剰なコンプレックスも減少するはずだ。

時間経過によって変わる 香水の表情
私だけの香り
自分に合った香りを見つけ、魅力を高めよう

現時点では、“におい”で特定の人を好きになることがあるかどうかを明確なメカニズムで証明することは困難だ。しかし、香りによって他者とのコミュニケーションが円滑になったり、自分自身の存在をアピールするキッカケになったりすることは否めない。

 においとは、感覚的で主観的なもの。だからこそ、私たち日本女性は体臭を気にするよりも、香水の付け方に気を配ったほうがよいだろう。場所をわきまえずに、むせかえるほどの香りを撒き散らしている女性ほど下品なものはない。香水の香りは、体温が高い人だと多く拡散し、低い人だとこもりがちになる。また、脂性肌の人のほうが乾燥肌の人よりも香りの持続性が高い傾向にある。それゆえ脂性肌の人が、ムスクなどアニマル系の香りをまとうと甘すぎて、くどくなりがちなので気をつけてほしい。同じ香水でも季節や体調の変化によって、香り方が違ってくることも覚えておきたい。 香料は、4000年以上も昔から綿々と続く、自分の魅力を高める手段であり、自分自身を演出するツール。行動やシチュエーションによって装いを変えるように、香水をひとふりすることで自分の意識や周囲の反応も変わるもの。周囲にどう見せたいかということを意識して香水探しをすれば、自ずとシチュエーションごとの“自分だけの香り”が見つかるはずだ。

目には見えず、その効果には謎が多い香り。人から香る個性豊かなにおいに、情動が揺さぶられたとしても、なんら不思議なことはないだろう。 それゆえ、香りとは神秘的な存在なのだから。
(text/Miho Sasaki)

参考文献
  • 『「におい」と「香り」の正体』外崎肇一 / 2004 青春出版社
  • 『香りの世界をさぐる』中村祥二 / 1989 朝日新聞社
TPOで使い分ける 香水のタイプ

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