Vol.1 一番アートを愛する街、いまのアートシーン by 梁瀬 薫さん 

「ようこそ! ミーティング、もう少しで終わるから待ってね」と、キラキラ光る目で迎えてくれた。そのまま振り返り早口にテンポよく打ち合わせを進め、デスクワークをテキパキとこなしていく姿に、薫さんワールドに惹きこまれる。広いスタジオには、フォトグラファーとして活躍するご主人のジャックさんの本格的な撮影機材や、ひときわ存在感を放つ能面写真、イサム・ノグチ展のポスターからこれからお伺いするお話に期待が膨らみ、ホワイトボードに書いてあるプロジェクトネームからその多忙さが伝わってくる。

アートの秋、アートがひしめくNYの横顔を少し知りたくて、コンテンポラリーアートの第一人者として活躍する、薫さんのウエストにあるスタジオを訪問させていただいた。80年代NYで現代アートの最前線を必死に駆け抜けてきた薫さんは今も多忙な毎日。そんな薫さんが、時間の合間を見つけてはリラックスする安らぎのアートスポット、エディケーショナルなNYアート散歩をお楽しみあれ!
Report by Noriko Honma

梁瀬 薫さん Kaoru Yanase
東京の美大を卒業後、1980年、MOMAの仕事でNYへ渡る。以来、AICA全米国際美術評議員、美術ジャーナリスト、アートコンサルタント、プロデューサーなどNYのコンテンポラリーアートの第一人者として、活躍している。ご主人のジャックさんのサイトはこちら

「私は、毎晩深夜に帰宅する、ダメな母親なのよ~」、日本から美術出版の方が来るからご飯でもどうですか?
と誘われるがままに先日、イーストにあるお宅にお邪魔したことを思い返す。

それでも薫さんの1日は、6時に起きて小学校に通う双子のオリビエくんとフランソワくん、女の子ソフィちゃんの、3人のお子さんのお弁当作りからはじまる。ご主人のジャックさんとイーストに住み、ウエストにスタジオを構えているから、子育てと仕事をお互いに時間配分しながら両立させている。お料理が好きなジャックさんが、子供たちに食事を振る舞う。「パパ、ワイン頂戴」。子供とはフランス語で話すジャックさんが、子供用のワインをついであげる。忙しい毎日を送りながらしっかり子供とのコミュニケーションをとり信頼関係ができている様子が、彼らの笑顔からわかる。フランソワくんが子供部屋からエンパイヤーステートビル群の夜景を見せてくれた。

美術ジャーナリスト、全米国際美術評議員という肩書きから、アートコンサルティング、プロデュース、NYのデザインガイド、アートガイドの製作、美術館の日本語ガイダンスの制作監修、美術、デザイン雑誌、読売新聞のアートコラムの週連載、ラジオのパーソナリティ、東京FMのゆく年くる年で語るなど、NYと日本のアートの架け橋としても、薫さんの活躍は実に幅広い!頭の回転が速く、知的好奇心旺盛な薫さんは仕事が楽しくてテキパキこなしていくのだろう。

現在は、シカゴにあるシアーズタワーミュージアムのガイダンスの収録という大きな仕事を終えたばかり。欧米では学校で美術館に見学に行くことが多いから子供達にも理解できるように編集されている。目下のプロジェクトは、2008年キース・へリングの生誕50周年の展示・日本版のキューレーション。そのために小淵沢にあるキース・へリング美術館に出張に行かなくてはと、聞いているだけでも目が回りそうなスケジュールをこなしている。

東京の美大を卒業して、1980年代にMOMAのプロジェクトでNYに1年契約として渡米してから、美術出版社NYオフィスを立ち上げる。生前のアンディー・ウォーホルが、キース・へリングが、アレン・ギンズバーグ、バスキア、デヴィッド・ボウイですらをも身近に、次々に才能が生まれて止まらない現代アートの最前線を必死に駆け抜けてきた。

NYは9・11事件以降、安全でリラックスした街にか変わりつつあるが、薫さんが駆け抜けた80年代は、ドラッグがひしめき、盗難が日常的に起こり、誰が銃を持っているかわからない緊張感の高い街だった。まだ揃えたばかりのアパートの家具小物一式を盗られて、それらが階下の通りで売られていても、撃たれたら怖いから、自分の物なのに、気に入っていたアイロンだけを、その泥棒から元の値段より高く買ったという。アートシーンでは、パフォーマンスアート、ポップカルチャーがクラブシーンに欠かせないもので、マイコレクターと出会う場でもあった。アルコールにドラッグ漬けで、眠る時間もいらない不健康な時代にこそ、究極のコンテンポラリーアートが生まれた。最近は、ドラッグよりもオーガニック、無茶をしないヘルシー志向に変わり、芸大生、アーティストも小奇麗で、健康的なアートシーンへと変わってきた。確かに今のNYはどこを歩いても綺麗で安全だ。

ご主人のジャックさんとは、イーストのバワリーホテル近辺が、パンクやドラッグの巣窟で、トンプキンズスクエア公園でホームレスがごろごろする、あまりにも「ヤバイ」エリアだった頃、アパートの階下の売れないすし屋を時々手伝っていた時に知り合ったそう。「お客さん一人だから、一緒に話していたら、結婚まで至ったの」ジャックさんは、ポートレートを中心にNYで活躍するフォトグラファー。学生の頃、ロックフェラー財団の賞を受けて、半年間、沖縄から北海道まで撮影旅行に来たことがあるそう。夕張の炭鉱夫をこんなにもアーティスティックにセクシーに撮るフォトグラファーがいるだろうか! 炭鉱夫というプロフェッショナルな仕事を持つ男の皺から、手から色気さえ漂う。ジャックさんに撮ってもらいたくて、スタジオ訪れる人も後を絶たないのも納得する。

NYでの生活と仕事が充実している、薫さんの目は真っ直ぐで活き活きと輝いている。薫さんが、多忙な時間の合間を見つけてはリラックスする安らぎの場、アートスポットを案内してもらった。全ては、薫さんのスタジオがある、36丁目から徒歩圏内。


薫さんが年に2回主催する、人気のNYアートセミナーがある。NYのアートを熟知した薫さんが案内する1週間。学生から大人まで誰でも参加できる。アートの知識と幅と奥行きを広げてくれること間違いなし。

また、11月中旬から、薫さんのスタジオでは、MAYAMAXさんの個展が開催。日本でも活躍するMAYAMAXさんの魅力を版画に引き出してみたいと、薫さんがプロデュース。それらの作品はコマーシャルの仕事が多いMAYAMAXさんの芸術性を高めてみたいと、エネルギーを凝縮し細部にこだわり、東京のKIDOプレスさんにしかできないという、高度な印刷技術のコラボレーションにより出来上がった。11月にNYへ行く予定があれば、ぜひ薫さんのスタジオへ訪れてみては。

MAYAMAXさんの個展に関するお問い合わせ  [ KIDO Press, Inc. ]
■薫さんのスタジオ“YDNY production” 260 West 36th Street, 9th Fl. New York, NY Tel:212-465-1003

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