レッグウェアの歴史
足元のおしゃれは、男性の文化だった
京都で運命的出会いを果たしたシルクストッキング

鴇田氏は、これまでにサポートストッキングの開発に尽力し、ルーズソックスやレギンスなど数々の流行を仕掛けてきた人物だ。彼が流行を生み出すための“未来”だけではなく、歴史という“過去”に目を向けるようになったのは、20年ほど前のこと。一足のアンティーク靴下との出会いがきっかけだったという。「商用で京都に出かけた際、白川通りのおしゃれなアンティークショップに目が留まりました。入ってみると、西洋の家具やアクセサリーがひしめく店内に、ポツンとグレイッシュなミントグリーンのシルクストッキングがあったんです」

(写真左)京都で運命的出会いを果たしたシルクストッキングは自社広告にも用いた

価格がかなり高額だったため、一度は諦めて東京に戻ったものの、その美しいストッキングが忘れられず、再び京都に赴き、やっと手にした。これを機に、鴇田さんは知人の協力を得ながらアンティーク靴下の収集を始める。その過程で、研究者たちとも出会い、靴下の歴史について探求を深めていった。そして辿り着いたのが、“足元のおしゃれは、もともと男性のものだったのでは”という考えだ。「考えてみれば、当たり前なんですよね。動物は、雌の気をひくために雄の方が華美なんですから」

靴下そのもののルーツは、諸説ある。だが、かなり古くから脚を守るために存在していたことは確かだ。紀元前200~100年のローマ時代にアラビアの遊牧民が手編みで作ったとされるサンダル靴下の存在が確認されているし、英国のレスター市博物館にはエジプトで発見された西暦400年代の子供用靴下が収蔵されている。西暦約1000年前後には、北欧で絹や毛織物、木綿地、毛布などを裁断し、縫い合わせた防寒用の靴下が活用されていたようだ。

このように実用品だった靴下が、ファッション性を帯びてきたのは15世紀のルネサンス期であったとされる。「16世紀には、男性服が腰部を覆うだけの短い胴衣“タブレット”になり、露になった脚を覆うためにタイツ風ズボンが登場。これが、ファッションとしてのレッグウェアの走りではないかと言われています」

17世紀、露出の多い男性の足元は、より飾られることが多くなり、レッグウェアに凝るように。「この頃は、男性たちはブルマー状のズボンをはき、フリルやリボン、金糸や銀糸の刺繍、幾何学模様をあしらったものや、鮮やかな色や絹を使った贅沢なレッグウェアを好むようになりました。そんな風に演出された、男性的な脚線美を持つ人物は色っぽいとされ、女性に大いにモテたようです」

(左)ファッションの歴史 (右)鴇田さんコレクション

(写真左上) 15世紀ルネサンス期に描かれた、フランチェスコ・デル・コッサ「聖ベルナルディノの奇跡」 ©『ファッションの歴史―西洋中世から19世紀まで』
(写真右上) 鴇田さんコレクションより

この時期に人気だったのは短いストッキングだったというが、それを留めるために用いられたのが“ガーター”と呼ばれるひも。今ではセクシーな女性の必需品となっているガーターも、元は男性の装飾品だったのだ。

1600年ごろになると、英国の女王エリザベス1世が始めてシルクのストッキングをはいたことから、ようやく女性もレッグウェアを用いるようになったというが、それでもフロアレングスのドレスの時代。自分のための楽しみとして、美しい下着を求めるように美しい靴下を纏う願望はあったかもしれないが、その実態については文献や資料が少なく今もあまりわかっていない。

「私が集めているアンティークストッキングの中には、今の感覚で女性用かと思っていても、実は年代を考えると男性用なのではというものも多いんですよ」

19世紀に入ると、カラフルな女性用レッグウェアが登場。スカートの丈が短くなるにつれて、やっと女性のレッグウェアも進化していくのである。

(写真左)エリザベス1世 ©ロンドン、ナショナル・ポートレート・ギャラリ

エリザベス1世

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