ファッションデザイナーのケイト・スペードも、『赤い風船』から強い影響を受けたという。著書「STYLE」(ブックマン社刊)の中で、自らがどんな人々、経験、物事からインスピレーションを受けてきたのかを語っているが、そこで、『ニノチカ』『シェルブールの雨傘』『卒業』『俺たちに明日はない』『アニー・ホール』などとともに、スタイルのある映画として挙げているのが『赤い風船』。「赤という色にこれほど勇気を感じ、希望を与えられたことはありません」と評している。独特の色彩センスを持ち、自らを“強気な色使いをする”と話すケイトは、赤について「怖いもの知らずの色のひとつで、その力強さには憧れを覚えます」とも言っている。その背景には『赤い風船』を通して得た、赤についての強烈な体験が影響しているのかもしれない。

もちろん、映画でもこの作品にインスパイアされた人々は多い。若き日の巨匠アンドレイ・タルコフスキーは、映画学校の卒業制作『ローラーとバイオリン』の中でその影響を垣間見せる。バイオリンのレッスンから逃げ出した上流階級の少年が、工事現場で労働者階級の青年と出会い、心を通わせるという46分のファンタジックな物語。“違い”を気にせずに、純粋な心で物事を見る二人の関わり方などに、『赤い風船』に描かれていた友情&自由というメッセージを色濃く感じさせる。空想シーン、ポップなスタイル、鮮やかな色味などは、難解と称される後年のタルコフスキー作品とはややイメージが違うものの、幻想的な表現の中に強い社会的メッセージを忍ばせる作風は、巨匠の原点とも言えるだろう。
(写真左)タルコフスキーの事実上の処女作『ローラーとバイオリン』より。モスフィルム/1960年製作
映画『バニラ・スカイ』のラストで、トム・クルーズ演じる主人公が一瞬のうちに過去を思い出すフラッシュバックシーンの中にも、『赤い風船』のワンシーンが登場する。主人公の潜在意識に強烈に残っている作品としていくつかの名作とともに現われるのだが、どうやらキャメロン・クロウ監督のお気に入りの映画であるようだ。
おすすめ記事
-

POWER OF FASHION
2010.11.10
今こそ感じたいファッションのパワー10
-

吉田修一 NOW and THEN
2010.09.07
吉田修一の描いてきたもの、描いてきたこと。そしてその向こう。

