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シャンペーン
デビュー作品。若い日本の芸術家が作品を抱えて、アムステルダムの画廊を訪ねるというファンタジー。美人の画廊オーナーを前にして、芸術家はたちまちどもってしまう。芸術家の片言の英語とセクシーな画廊オーナーの受け答えとが頓珍漢なドタバタ劇。音楽は全編、演歌・歌謡曲。

脇役物語
最新作。益岡徹・永作博美主演の、国際共同製作映画。10カ国以上の出資家の支援によるアメリカ式インディペンデント映画の製作体系で東京にて撮影された。共演は松坂慶子・津川雅彦、他。

日本人にして英語で脚本を書き、ニューヨークを経てドイツ・オランダなど海外で活躍してきた国際派映画監督、緒方篤さん。近年は日本を舞台に世界へ向けてメガホンを取っている。まずは2006年に公開されて話題となった作品をご紹介しよう。ストーリーの舞台は新潟県十日町。老人をテーマにした「不老長寿(Eternally Yours)」は軽快なテンポが五感を刺激する新感覚コメディ映画である。


知的でウィットに富んだ新しい笑い

緒方篤 

映画監督 映像作家
ハーバード大学学士課程卒。マサチューセッツ工科大学修士課程卒。ドイツ・ケルンのメディア・アート・アカデミー KHMの客員作家として招待される。ドイツとオランダで脚本執筆の助成を受け、国営テレビに俳優として出演。禅的な手法が欧米で広く評価を受けて、スペイン・レイナ・ソフィア国立美術館(マドリッド)、ステッドライク美術館(アムステルダム)、ニューヨーク近代美術館ロックフェラーセンター・ヴィデオ・ウォール(ニューヨーク)、ヴェネチア・ビエンナーレ93ゼノグラフィア(ヴェニス)で上映されてきた。「不老長寿」はアメリカ10大映画祭のひとつ、ニューヨークのNew Directors / New Films映画祭(2007)に日本から唯一入選。バンコク国際映画祭短編部門(2007)で優勝。ハリウッドのムーンダンス国際映画祭(07)でSeahorse Best Film賞を受賞。

作品は、15分の短編映画。緒方監督が、社会問題であるリストラや高齢者を狙った詐欺が多い近頃の世相から着想を得て、老婆と詐欺師の騙し合いの喜劇が作られた。

十日町を撮ることを条件に撮影され、2006年の「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」からの製作委託で実現され、出展された。出演は、俳優・益岡徹さんと、劇団「円」の女優・池田道枝さん。2人とも脚本を読んでその場で即決したという。うだつの上がらない中年男が、お年寄りを相手に集金詐欺を企み、一人暮らしの老婆の家に不老長寿の薬の配達員に扮して訪れる。老婆は友人と勘違いするが、幼友達や同級生、愛人だったヤクザな男の記憶が錯綜して、ペテンにかける側も翻弄されながら、その度に違う男になりすまし、騙す金額をつりあげていく。

(写真)「不老長寿」のスチール写真 (池田道枝 & 益岡徹)

そしてラストの大どんでん返しには若さも老いも関係ない人間の知恵が表れる。想像力が誘発される絶妙な間合いとテンポ感で、詐欺師と老婆との心理戦の人間ドラマが描かれていく。たった15分間で、長編ドラマを見たような充足感。知的でウィットに富んだ新しい笑いのスタイルには新鮮な驚きを感じた。

「日本で今はやっているコメディは、ドタバタ系でウィットに欠けるものが多い」と言う緒方監督は、高齢者に対しての先入観を覆したかった。お婆さんが仕掛けるどんでん返しがそれである。また、映画には随所にパロディが仕掛けられている。例えば「From Here to Eternity」という薬名は、1953年のアメリカ映画「From Here to Eternity(地上より永遠に)」という映画の洒落であり、ヒッチコックのように、緒方監督が一場面に現れるという隠された仕掛けもまたコメディ効果のひとつ。さらに、幼少時代を海外で過ごした緒方監督は、大の演歌・日本歌謡ファン。「不老長寿」のテーマ曲は、市丸さんが唄う昭和の名曲「十日町ブギ」である。

この映画は新潟の震災後、高齢者をだます詐欺師が社会問題になっていたのでちょうどタイムリーな風刺となった。また同時に普遍的なテーマゆえに、国内外の映画祭だけでなく、高齢者向けのセミナー、病院、大学、インターナショナルスクール、修道院、大使館など場所を変えて広く上映され、どこでも大爆笑を生んだ。観客、各国の映画関係者から、シリーズ化や長編映画を熱望された。

新作はロマンチックコメディ

サンパウロ映画祭の帰りの飛行機の中で思いついたという待望の新作は、父と息子の葛藤を描いた長編映画。この夏、撮影を終えたばかりだ。人違いばかりされるアイデンティティのない万年脇役の俳優が女優の卵との恋愛を通じて、コンプレックスを抱いていた老親に心を開いていくまでをテンポよく描いたロマンチックコメディだ。自分の父親のユーモラスな台詞を思い出しながら、サンパウロ映画祭から帰国して三日三晩熱に冒されながら発案した傑作である。主演は益岡徹さん。コメディのジャンルに長けたチーム作りによって人が繋がっていき、作品のユーモアを理解してくれた松坂慶子さん、津川雅彦さんと豪華な出演者が決まった。

(写真)「脇役物語」のスチール写真 (津川雅彦、永作博美、益岡徹)

ヒロイン役の永作博美さんについては、「コメディには強い女性を描くと面白い。日本の通念にはない個性的な女性を描く。ちょうどガールとウーマンの間の女性。“社会がどうであれ、自分はこう進む”という力強くエネルギッシュな女性。それで永作博美さんを主演に選びました」と緒方監督。音楽も感情をかきたてる思い入れのあるオリジナル音楽36曲の作曲をハリウッドの音楽家に依頼。

映画とは全体芸術。今まで映像作家として全て一人で製作することが多かった緒方さんにとって、ポンと提案したことが周りの人たちによって広がっていく、この全体感が新鮮だったという。みんなで作り上げていく全体芸術、映画製作に魅了されているのだそう。 「僕の世界観は明るいんです。悲劇を書こうとしても本質が明るいからどうしてもコメディになってしまう。子供の頃から来客の多い家で父親のウィットにとんだ会話を聞いていたから、それが自然と植え付いているようなんです。自分に起こる大変な苦労話も、皆が笑う。オランダでパフォーマンスビデオを撮った時のきっかけも、食中毒で寝ていて、たまたまルームメイトにかかってきた電話に出たことから自分に依頼された、というもの。日常のドラマから湧き出てくるコメディ。それ自身、コミカルで哀愁がある」。

脇役物語は3世代の対抗による亀裂が描かれている。社会不適合者と見なされる人が起こす事件や家族崩壊など暗い話が多い世の中をユーモラスに表現した。違う世代が登場することで、社会性が見えてくる。またこの映画を見ていると、緒方さんの作品は、笑いの視点がアートに近く、無意識に訴えるから可笑しいのだと感じる。

話すテンポは速い緒方さんだが、とてもリラックスしている。以前はリラクゼーションを与える映像を作っていた。水、花など人間と自然の調和を映像と音で表現していた。アートフロントからの委託製作で日本海を撮影しに新潟へ行ったことが現在に至るきっかけに。荒れる日本海で波をかぶりながら顔にワカメが付いていることにも気付かず夢中で撮影していた自分や、実生活では新しい洋服すら買えないほど困窮していた自分を笑って楽しんでいた。「人生が楽しい。他に何もしてない、趣味が仕事になったから」と語る緒方さん。そんな彼のキャラクターは脚本にも反映されている。「笑いとは、ビト・アコンチの言葉を借りると、“視点の変化”。決まりきった考えも視点を変えてみるとコミカルになり、相対的に考えられる。そう、たいしたことはない。そんな視点の変化をもたらしたいんです」

(写真)「脇役物語」現場風景 (益岡さんと緒方さん)

欧米に留学して演技と脚本を研究したことから、バラエティ番組や映画の脇役の経験も積み重ねてドラマ制作に至り、さらに映画表現においてアヴァンギャルドな追求をするようになった緒方監督。ハーバード大学やイエール大学の同窓会に呼びかけ、出資者を募り撮影した「脇役物語」は来年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でプレミア上映されることが決定している。その後、世界の有力な映画祭に出展を予定しているので、日本での上映もそう遠くないだろう。国際的なサポートを得てローカル性の強い日本映画で国境を越えていく、緒方監督のコメディに注目だ。
text / Noriko Honma(Legends Press)

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