

今日では、ネットショッピングで海外の商品を取り寄せることが可能だ。購入するためにわざわざ現地へ行かなくてもいいのは便利だが、どこか味気ない気もする。パリで開催中の「江戸の陶器」展を見たとき、そんな風に感じてしまった。会場に並んでいたのは、江戸時代の器、茶器、大皿や華道の道具など、展示会を開催したセルヌスキー美術館のコレクションを中心とする120点。当時は渡航前に現地の情報を得ることすら困難だったはずなのに、よくこんなに素晴らしいものを蒐集したものだと感心した。今で言うコレクターの目が肥えていたのか、モノを見る感性が豊かだったのか。いずれにしても、年月をかけて、釜工房から誕生する作品を集める楽しみを味わったのであろう。何とも優雅でセンスある美の嗜みである。
日本が世界から関心を寄せられるようになったのは、昨今の話ではない。歴史の中で、流通の発達と文化交流を介して育まれてきた。特にフランスの日本文化びいきは有名で、絵画や装飾芸術、文芸など、長年にわたって日本の伝統に魅了されてきたのだ。
日本の技や匠は、我々日本人でも知りつくすことができないほど豊かである。デザイナーの島村卓実(しまむら たくみ)氏は、20年近く自動車産業界でカ―デザインをした後、デザイン事務所Qurz,inc.(クルツ)を設立した。以降、凄まじい勢いで海外出展を果たしている。とりわけ、島村氏の作品には、日本の伝統工芸を現代仕様にアレンジしたプロダクト群が多い。
今年の新作には漆も加わり、話題を呼んだ。青森県の津軽塗を用いたワイン、シャンパングラスシリーズのasitisは、人間や動物の表情を器の輪郭に取り入れている。能面や浮世絵の女性、レオナルド・ダ・ヴィンチの表情が、卓上に置いたグラスの輪郭から読み取ることができる。漆器は、完成するまでに何重にも層を重ねていく。津軽塗の特技でもある研ぎ出しは、下層の色が研磨で表面に突出してくるので、結果を読むことができない卓越した技法だ。
パリの見本市に出展後、漆職人の斎藤和彦氏と島村氏は、パリ造形美術大学ブール校での実演とレクチャーで、フランス人学生たちに技術を紹介し、デザインに取り入れた事例を披露した。こうした交流は、学生にとって将来のものづくりに欠かせない貴重な体験である。異文化から自国文化に目覚める場合もあるし、また、分かち合うことでお互いが進化することもあるだろう。
島村氏のデザインは、とりわけ素材の加工方法が興味深い。カ―デザインで鍛えられた意匠プロセスは、どんな素材でも自由自在に操ることを可能にするようだ。たとえば、高知県馬路村の杉の間伐材を一体成形にしたバッグmonacca。グッドデザイン賞も受賞したこのバッグは、間伐材のみを利用したエコロジー対策を生産段階から取り入れている点と、アングルの部分に丸みを持たせた成形手法も特有で、一躍メディアから注目を浴びた。また、京都の竹職人と一緒に手がけた和傘SINARUは、一本の竹から作られる。2段階調整の開閉で体の大きさにあわせることができ、使い勝手は悪くない。さらに、傘を開くと、透明ビニールが竹の骨組みを美しく暴く。
西洋人の常識を覆す紙ひもでデザインされたプロダクトも紹介したい。西洋人たちは紙を破れやすく耐久性に欠ける素材だと考えるが、かつて木と紙の家屋に住んでいた日本人は違う。100%リサイクルペーパーを使用したcuioraシリーズは、細い紙ひもを寄せ合わせた1.8cm幅の紙ひもで、その耐久性は70kgの米袋を持ちあげる取っ手にもなる。実際のプロダクトは、フルーツボウルにクッション、照明器具、なんとスツールまであるが、背丈2m近くの大男が腰掛けても座面が抜けることはない。同じ素材を用いたクッションカバーと見比べて驚く人もいた。どうやら、同一素材とは連想し難いらしい。
文化が培う価値観に差異があるのは当然のことであろう。ただ、発見と驚きを受け入れ、理解しようとするか否かで到達する次元はおのずと異なってくる。日本のデザインが注目される根底には、先代の伝統工芸があることを忘れてはならない。そこに宿る技と匠を追及することで生まれる美。デザインは、機能性に応えるだけではなく、経年変化とともに擦りへり、キズがついても風合いがあるものがよい。討論は永遠につづくことだろう。

2010.11.10
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2010.09.07
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