どこを切り取っても絵になる街、プラハ。 古い街並みが多く遺されたヨーロッパ各地の人々にとっても、ここは特別な場所だ。第一次、そして第二次世界大戦でも戦火を免れたチェコのこの都市は、街全体が世界遺産に指定された、いわば人類にとっての貴重な財産。町中に点在するのは、ゴシック、バロック、ロマネスク、ルネサンスなど、長い時を刻みながらも今なお美しい姿を残す建築の数々。各時代を象徴する特徴的な建造物が、お互いを讃えるように仲良く建ち並ぶ。中世からの街並みがそのまま遺されている場所も多く、路地に入り込み人影がなくなったときなどは、目の前の角から中世の騎士が馬に乗って今にも現われそうな感覚に襲われるほどだ。そんなタイムトリップ感覚は映画の中でも生かされている。過去のヨーロッパを舞台にした映画が撮影される際、プラハがロケ地に選ばれることは多い。その代表はモーツァルトを主人公にした映画『アマデウス』(1984年)。物語の舞台はウィーンだが、撮影はほぼ全編にわたりこの街で行われている。
人口120万人。総面積496平方キロメートルにわたって広がるプラハ。その市内の中心部を貫くように流れているのが、ヴァルタヴァ川だ。ドイツ語読みでモルダウと呼ばれているといえば、親しみが湧くだろうか。チェコが誇る作曲家、ベドジフ・スメタナの6つの交響詩から成る『わが祖国』に含まれる「モルダウ」で有名だ。そのヴァルタヴァ川沿いの旧市街には、スメタナ博物館が位置し、彼の銅像が川を背にして佇んでいる。
そのすぐ脇に構えているのが、有名なカレル橋。観光地として有名だが、ヴァルタヴァ川を挟んで東と西に広がる街を繋ぐ、市民にとっても重要な橋だ。川の右岸には旧市街、新市街、ユダヤ人地区、西岸にはプラハ城を含むフラッチャニ地区、マラー・ストラナ地区がある。プラハの美しい景観を印象付けるこれらの地域は、重要な歴史地区として、1992年にユネスコの世界遺産に指定されている。
プラハ城が築かれた年、西暦870年がプラハの始まりとされているものの、城が拡張され、カレル橋が建設されるなど都市整備が行われたのは、1346年にローマ帝国の皇帝に選ばれたカレル4世の時代。急速に発展したこの街は「黄金のプラハ」と呼ばれるほど繁栄していた。以後も繁栄し続けたこの街は、芸術家、錬金術師、占星術師などが集められ、プラハはヨーロッパの文化の中心都市として栄華を誇ったという。その頃に養われた美意識は、今もプラハを支え続けている。
旧市街広場で観られる旧市庁舎、その壁面で500年もの時を刻み続ける仕掛け時計、ティーン聖母聖堂、そしてプラハ城、その中心に位置する聖ヴィート大聖堂、城内部にあるフランツ・カフカも暮らした黄金の小路など、長い時を生き抜いてきたものたちが、今も見事に保存されている。歴史的な建造物の多くは見学も可能。また、音響の素晴らしい教会やホールなどでは、毎晩のように音楽会、人形劇、演劇などが行われているので、贅沢な環境の中、ぜひ質の高いエンタテインメント文化も感じ取ってみたい。
プラハが持つ美へのこだわりは、ただ街を散策するだけでも味わえる。何気なく佇む家の壁に描かれた壁画やレリーフ、小さなドアノブやドアノックなど、デリケートな細工に思わずため息がもれる。ひとつひとつ眺め、心奪われながら歩いていると、つい時間の過ぎるのを忘れてしまうほど。
多くの発見がある街プラハでは、そぞろ歩くだけでも様々なチェコの文化と出会うことができる。伝統的な人形劇文化を支えるパペットの店や伝統菓子の店、チェコのアニメーション文化を感じさせるキャラクター、芸術家アルフォンス・ムハ(フランス読みではミュシャ)の美術館、彼がデザインしたアール・ヌーヴォーのエクステリア、チェコガラス細工の店、等々……。アンティークショップも数多く、歴史や遺産を大切に愛でるプラハ市民の気質を強く感じさせてくれる。
そして、歩きつかれたら、世界最高の消費量を誇るチェコビールで喉を潤し、ボリュームのある肉や魚料理に舌鼓を打つ。それがプラハの楽しみ方だ。そんな楽しみを見逃さないためにも、ぜひ地図から目を離し、たまには小さな路地に迷い込みながら、時間に縛られない自由な旅を満喫して欲しい。そうすれば、自分だけのプラハがきっと見つかるはずだ。
( text / june makiguchi photo / pawel jaszczuk)