21世紀を迎えて舞い上がっていた正月開けのこと。普段、スーツなど着ないのに何を思ったかオーダーメードしたことがある。しかもシンガポールのインド人街。理由などない。創りたくなったのが、たまたまその場所だっただけのことである。
「素材はこれで、こんな感じで作ってくださ~い!」
一緒に取材に来ていた編集者に訳してもらい、その店の机に置いてあったメモに下手なデザイン画を描いて置いてきた。数日後、出来上がってきたものは自分の考えていたスーツと全く違うデザインのスーツが出来上がっていた。「なんでこうなるの?」という気持ち8割、「やるなぁ…。こう来たか」という気持ち2割であった。
トイカメラで撮ったフィルムが現像からあがってきた時の感覚が、この感覚に似ているのだ。トイカメラとは言葉の通り、おもちゃのようなカメラのことでプラスチックのレンズだったり、ファインダーやシャッターがなかったりする。よって現像するまでどんな写真に仕上がるのかが予想し難く、しかも1枚づつフィルムを巻きながら、ゆっくり撮るというゆるゆるなカメラなのである。 もちろん、光、距離などを刻み、自分なりに仕上がりをイメージしてシャッターを押す(ピンホールカメラの場合はレンズのふたを開ける)のだが、写真が出来上がってきたときにつぶやくのである。
「こんなはずじゃなかった…」
そんな中から少しレトロな感覚の1枚の写真に出会い、またまたつぶやく。
「これ、メチャクチャいいかも…」
その感覚が好きで、最近、旅や散歩のときにはだいたい持ち歩いている。
自動シャッターの便利さに慣れ、デジカメのすぐ確認できる便利さに慣れてしまった時にトイカメラは、ホッとさせてくれるのである。スピード化、デジタル化が進んで行く中で、1枚1枚ゆっくり味わい、その味わいが現像まで続く。この時間は大切にしたいものである。もちろんその時間を切り取った写真も。
スーツ?結局、一度しか着なかった。しかも居酒屋の座敷で行われた新年会へ。何故、そこに着ていったのか未だに不思議でならない。