世の中がどこまでも便利になって、インターネットを使って在宅で何でも楽しめるようになったとしても、その場所に出掛けなくては味わえないだろうと思う一つに演劇がある。そんな偉そうに言っている僕も大学を卒業するまで演劇を観たことがなかった。せいぜい子供の頃、学校にやってきた、どこか教育的な匂いのする人形劇くらいで、当時は全く興味がなく、ほとんど観ていなかった。
自分が何になるのかわからないまま、上京して間もない頃、ある映画監督に誘われて演劇を観に行った。正直、内容は全く覚えていない。ただ、舞台の奥から何千個、いやひょっとするとそれ以上だったかもしれない、とにかくもの凄い数のビー玉が客席に向かって転がってきた。その光景は僕の脳裏に焼き付き、今でも昨日のことのように鮮明に覚えている。そのときの映像を見せられても恐らく脳裏には焼き付かないと思う。その場所で味わった者だけが得ることのできる記憶である。それ以来、僕は好んで演劇に足を運ぶようになった。小さい劇場のいわゆる「小劇場」と呼ばれる分野の作品から大きな劇場にかけられる「商業演劇」と呼ばれる作品(その区分けも不透明だが…)までジャンルにとらわれないで楽しませていただいている。
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(上):座席が赤い椅子に当たるといいことがありそうな気がするのは僕だけだろうか。(左):1階のアイリッシュパブで飲んでから劇場に向かうと、ロンドンで舞台を楽しんでいるような気持ちになる。(中央上):「赤坂レッドシアター」だけでなく、今年、赤坂には大きな劇場もできる。「赤坂」が今年の演劇のキーワードの一つになりそうな予感がする。(中央下):劇場の入っている建物は、デザイナーズホテルである。宿泊してエステというのも悪くないが、宿泊して観劇というのも悪くない。(右):取材したとき公演中だった「アルミカンライダース」の舞台美術。3月はイッセー尾形さんの一人芝居が予定されている。
演劇の内容や主旨によって当然、小屋も変わる。決して、大々的に宣伝している作品ばかりがいいとは限らず、桟敷席で見るような小さな作品でも一生、心に残る作品に出会えることもわかった。しかし、40近くなってきて、腰など身体の一部が悲鳴をあげ始め、桟敷席や小劇場に置かれた小さな椅子で見ることが体力的に苦痛に思うときが出て来た。そう思い始めたとき、赤坂に大人の為の大人によるミニシアターができたという噂を聞いた。良質な作品をゆったり観られるのだそうだ。観劇にこだわってセレクトされた椅子などは涙物である。
そんな素敵な空間で、日本ではまだ紹介されていない良質なブロードウェイの作品から、小屋に合わせた新作落語など聞いているだけでもワクワクする様々なジャンルの作品が計画されているそうだ。1階にはアイリッシュパブもあり、そこで友人と待ち合わせて軽く一杯飲んでから地下の劇場に向かうことができるのも魅力の一つである。その場所でしか味わえない空気を和ペリティーヴォな劇場で楽しむ。歳を経たからこそ味わえる喜びの一つなのかもしれない。
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イシコ
1968年生まれ。ホワイトマン代表
大学卒業後、女性ファッション誌編集長、Webマガジン編集長を経て、期間限定のホワイトマンプロジェクトでは白塗りで様々なコンテンツを生み出す。現在は「セカイサンポ」と称し、文字通り世界を散歩中。散歩の達人の連載コラムなどコラムニストやブロガーとしても活躍している。
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