南アフリカ産の赤ワインを傾け、ワイングラスの曲線を見ながら、
「曲線ってきれいだよねぇ」
とつぶやいた。すると一緒に飲んでいる友人達から気味悪がられる。最近、生活の中で触れる曲線が気になり始めたのだから仕方がない。直線だと機械的に感じるのだが曲線だと人間的な温かみを感じる。
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フィラデルフィアにKEIZO TSUKADAというアーティストがいる。僕が大好きな家具作家なのだが、彼の感性で削られたマホガニーは、これまた温かく優雅な曲線を放っている。
「美しい曲線だなぁ」
曲線という言葉は普段、口にする機会はほとんどないと思う。恐らく、意識して「曲線」という言葉を口にしたのは、彼の作品に出会ったときが最初だと思う。どこか女性のエロティシズムを感じさせ、どこか貴族の高貴さが漂う曲線なのである。
そんな彼自身の家具があふれるフィラデルフィアのタウンハウスに、しばらく滞在していたことがある。特に滞在理由もない。和ペリティーヴォな家具を眺めながら、ずっとワインを飲んでいたかっただけなのかもしれない。
「この曲線を触っていると飲まずにはいられないね」
僕はそうつぶやいて、彼の秘蔵ワインをどんどん空けていった。ワインを飲むために曲線の話をするのか、曲線の話をするからワインを飲むのかわからないが、何日も泊まっているうちに今日が何日目なのかさえわからなくなっていた。いい加減、彼もつきあいきれなくなっていた。
「冷蔵庫に白ワインが冷やしてありますから、もし、飲みたければ勝手に飲んでください。僕はアトリエに行ってきま~す」
一緒に泊まっていたカメラマンの友人と彼を見送った後、起き抜けに冷えた白ワインを飲むことにした。ずっと飲み続けていた僕は、寝ぼけと酔っぱらいでどこか定まらない手つきでソムリエナイフを使い、ワインオープナーで栓を抜こうとした。しかし、抜けない。
「あれれ。抜けないなぁ」
力を入れて、ボトルをテーブルに押しつけた。
「あっ!」
押しつけすぎて、彼の作品であるテーブルの盤面にボトルが回転した跡がくっきり残ってしまった。一気に酔いも冷める。消しゴムで消してみたり、水をつけてみたりいろいろ試してみたが消えるはずもなく、僕は彼が帰ってきて土下座をした。笑いながら彼は許してくれたが…。と曲線の話がいつしか苦い思い出の話になってしまった。そう考えると曲線が少々、苦々しく見えてくるから不思議である。
(photo / keizo tsukada)
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イシコ
1968年生まれ。ホワイトマン代表
大学卒業後、女性ファッション誌編集長、Webマガジン編集長を経て、期間限定のホワイトマンプロジェクトでは白塗りで様々なコンテンツを生み出す。現在は「セカイサンポ」と称し、文字通り世界を散歩中。散歩の達人の連載コラムなどコラムニストやブロガーとしても活躍している。
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