岐阜にある実家の庭に樹齢500年以上はあっただろうと言われたクスノキがあった。村一番と言ってもいいほど大きく立派な木だったが、あまりに落ち葉が多く、あまりに近所に迷惑をかけるということで3年程前、伐採されてしまった。子供の頃から当たり前のようにあった場所に、いざ木がなくなると何だか家族を亡くしたような気持ちになった。普段、離れて住んでいる僕でさえそう思ったのだから、木の近くで暮らしていた母は一番、寂しかったかもしれない。しばらく彼女は落ち込んだ様子で、挙句には大病を患ってしまった。
(写真上)パコーンノームという地方都市を早朝散歩していたら、3日連続でこの木の下を掃除しているおじいちゃんの姿を見かけました。(タイ)
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その頃からだろうか。旅の中で木のある風景が目に留まるようになった。その度に心の中で「こんにちは」と木々に声をかけ、触ることも多くなった。東南アジアのように奉ってある木々もあれば、ヨーロッパなどのようなアートに見えるような剪定された木々もある。これから育っていく木もあれば、何百年も、その街に住む人々の暮らしぶりを見つめてきたような木々もある。
近年、「地球温暖化対策」のための植林活動などが盛んになってきた。ご存知のように二酸化炭素を吸収してくれる木々は我々が生きていく上で計算式的に必要であり、それはそれで大切なのだと思う。そう思っている自分が、どこかで木を生き物ではなく、物として扱っていることに気がついた。人を優しくしてくれる木の魅力をどこかで忘れていた。都会で追われるような時間の中で生活し、カリカリ、ギスギスしているとき程、そんなことは忘れてしまう。自分の目に留まった木の前で立ち止まって、見上げるだけで、どこか心を穏やかにしてくれるのに。
(写真上)マドリッドの剪定は、個性的でひとつずつ見入ってしまいます。(スペイン)
最初に書いた母は、今ではこちらが困るほど元気になった。ただ、新幹線が地元の岐阜羽島の駅に近づいてスピードの速度が落ちる頃、ふと窓を見ると実家の場所を把握している自分だけが目についていたクスノキがないと思うと今でも少々、寂しい気がする。
(写真右)街路樹がトンネルを作って出迎えてくれるようなストリートが、ここにはあります。(ウルグアイ)
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イシコ
1968年生まれ。ホワイトマン代表
大学卒業後、女性ファッション誌編集長、Webマガジン編集長を経て、期間限定のホワイトマンプロジェクトでは白塗りで様々なコンテンツを生み出す。現在は「セカイサンポ」と称し、文字通り世界を散歩中。散歩の達人の連載コラムなどコラムニストやブロガーとしても活躍している。
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