

今年5月初旬、ニューヨーク・タイムズ紙が、パナマでかぜ薬のシロップを服用した患者たちが内臓機能の低下などの不調を訴え、多数が原因不明で死亡したと報じた。そしてそのシロップの原料となる「グリセリン」が原因で、ある中国企業が輸出していることを突き止めた。
調査を請け負ったアメリカの食品医薬品局(FDA)によると、原料として標記してあった「グリセリン」には、実際には毒性を持ったジエチレングリコール(DEG)が混入されていた。中国当局も「無認可の業者が、医薬品として使えない化学原料を製造した」と中国企業の関与は認めている。 一連の問題を受けて中国の週刊紙「南方週末」の最新号は「米食品医薬品局(FDA)は昨年10月の段階で、中国側に責任はないと判断していた」と報じているという(「SankeiWEB」より)。しかし、無許可の業者を取り締まるのは政府の仕事ではなかろうか? いささか疑問が残る。
そして中国の「食の安全管理」の問題はパナマに及んだだけでなく、中国国内でも深刻化している。近年、中国では外食産業の価格競争が激しく、コスト削減のため品質の悪い食用油を使用する店が少なくないそうだ。「品質の悪い」といっても、油が悪くなっても使い続けるのはまだ良いほうらしい。酷いところだと下水溝に溜まった油を原料として食用ラードを生産していることが明らかになった。昨年の夏、浙江省の「繁昌油脂廠」事件がその代表例である。その原料として、
[1] 豚を屠殺した後に売れ残った部分の肉を煮詰めて出来た豚油(業界用語では「雑粒油」)
[2] 皮革工場で豚皮を塩漬けにして乾かした後に竹で削り落とした豚油(工業用の使用は可)
[3] ホテルやレストランで何回も揚げ物料理に使われて廃棄された油
[4] ホテルやレストランの汚水に含まれた油
[5] 下水溝に溜まった油 (以上、「NikkeiBPOnline」より)
などが使われていたことが台州市衛生監督所の立ち入り調査により明らかとなった。販売先は地元の浙江省だけでなく、四川省、山東省など他の地域にまで及び、レストランやファストフード店に流通していたらしい。広域に及んだため、100トン以上の「品質の悪い」油の回収は全く進んでいないという。
原稿を書きながらも気持ちが悪くなってくる。なぜこれらのような事件が国内外で起きてしまったのだろうか。国による食品安全管理が行き届いていないこと。近年、先進国では注目を集めている「トレーサビリティ」が明確でないこと。そして自己の利益を最優先し、消費者の健康についての配慮が皆無であること。このような事件を読んでしまうと、中国に旅行をしたときに危惧を抱かざるを得ない。果たして今日、私が口にしている中華料理は安全か? 今日、服用しようとしている薬は中国産ではないか? 生産者にはそれなりの責任感と倫理観をもって生産をお願いしたい。
丹羽 康子/ Yasuko Niwa
英国オクスフォード大学で国際関係学を専攻し修士号取得。政治だけでなく金融知識も身に付けたいと帰国後、外資系証券会社に勤務する。日経CNBCにて経済キャスターを経たあと、現在は茶道家としての活動をすすめる側ら、金融教育やキャリア教育などの講演でも活躍中。









