

首相、安部晋三が構想する「美しい国、日本」は「『自由』と『規律』を知る、凛(りん)とした国」だという。その日本では近年、タバコに対するエチケットも向上し、急速に「分煙」が進んできた。ただ、隔離された喫煙室があるところもあれば、喫煙席と禁煙席を隔てるのが観葉植物一つだったりする場所もあって、分煙の仕方はまちまちだ。しかし英国は先日、それよりも一歩踏み込んだ「禁煙法」を施行した。
国として罰則規定を伴う禁煙法を最初に施行したのはブータンである。2004年12月にタバコ製品の販売禁止、ついで2005年に公共の場での喫煙を禁じた。その後、世界的に禁煙活動がひろがり、ニュージーランド、ノルウェー、ウルグアイなども公共の場での喫煙を禁じている。カナダやアメリカなど、州ごとに取り決めているところもあれば、また、近年中に禁煙法を施行する国も少なくない。
英国内ではすでに先行して2006年にスコットランドが、そして2007年4月よりウェールズと北アイルランドが禁煙法を施行していた。そして2007年7月、ついにイングランドにも施行され、英国本土内における公共の屋内の場では全面的に禁煙となったのである。
規制の対象となったのは、店舗やオフィスなどの公共の建物内や事業用の車内など。禁煙法に違反した個人は最大50ポンド(約1万2500円)、施設管理者は最大2500ポンド(約62万5000円)の罰金を支払わなくてはならない。最近ではウェールズ・ニューポートのバスターミナル施設内で18人の喫煙者が目撃され、全員罰金を課された。市の職員と警察がCCTV(防犯カメラ)で撮影して確認をとるという徹底振りだ。
それに対して、日本の喫煙事情はどうだろう? 年々パッケージについているタバコの注意書きは長くなるが、あいかわらず自動販売機では低価格で売られている。イギリスでは90年代半ば以降タバコ税の引き上げによって一箱あたりの価格が上昇し、喫煙を断念する人が増えたとみられている。英国と日本の現在の一般的なタバコ銘柄の小売価格を比べてみるとその差は一目瞭然。英国では4ポンド50ペンス前後、日本円に換算すると約1,100円。対して日本は270円から300円、英国のおよそ三分の一の値段で販売されている。
日本ではたばこ事業法の中で「小売販売業者は、財務大臣の認可に係る小売定価によらなければ、製造たばこを販売してはならない」(第36条)と定められいて、定価格制度を採用している。これはブラックマーケットを禁じる措置であり、また明治37年から続く零細事業の多いタバコ販売小売店を救済するための手段だと指摘されている。しかし安く定められている以上、喫煙を試みようという若者は絶えないのである。
そこで「美しい国、日本」を目指す政府の矛盾が浮き彫りになる。世界の潮流として「美しい国」とは健康志向で、喫煙を許さない方向にむかっている。この先は世界の常識も変わりつつあり、ところ構わず喫煙をする愛煙家はどうしたものか。現在、屋外とはいえ人ごみにまぎれて歩きタバコをしている人はよく見かけるし、道端の吸殻を一生懸命拾っている清掃員もよく目にする。
タバコの禁じられた高校生が駅のホーム内やマクドナルドの喫煙席で喫煙しているところを見かけたこともある。政府ももっと真剣に喫煙を制する政策を案じないことには気づいたときには「美しい国」構想からは、大きくかけ離れてしまうのではないか。
丹羽 康子/ Yasuko Niwa
英国オクスフォード大学で国際関係学を専攻し修士号取得。政治だけでなく金融知識も身に付けたいと帰国後、外資系証券会社に勤務する。日経CNBCにて経済キャスターを経たあと、現在は茶道家としての活動をすすめる側ら、金融教育やキャリア教育などの講演でも活躍中。









